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25歳で逝った天才ギタリストの軌跡を辿って。親が信者だったカルト教団への反抗心からヘヴィメタ好きに?

水上賢治映画ライター
「ランディ・ローズ」のアンドレ・レリス監督  筆者撮影

 タイトルとなっている「ランディ・ローズ」という名を聞いてもあまりピンとこない人も多いかもしれない。

 少しだけ触れると、彼は1980年代に活躍し、あのエディ・バン・ヘイレンと並ぶ脚光を浴びたスーパー・ギタリスト。

 しかし、まさにこれからスター街道を歩もうとしたその矢先に不慮の事故により25歳の若さでこの世を去った。

 その死から40年という節目の年に届けられたのが、本作「ランディ・ローズ」だ。

 もはや伝説の存在といっていい早世のギタリストの軌跡をたどったアンドレ・レリス監督に訊く。(全四回)

ヘヴィメタルのアーティストたちの反抗精神への憧れ

 前回(第一回はこちら)は、監督を務めるに至った経緯の話となったが、その中で、自身もミュージシャンとしての活動歴があることに触れられた。

 ということで、元々音楽好きで、とりわけヘヴィメタルには大きな影響を受けたという。

「若いころというより、まだ子どものころ、10歳や11歳ぐらいからヘヴィメタルが大好きでした。

 最近たまたま小学生時代のフォト・アルバムを見る機会があったんですけど、ほとんどヘヴィメタのTシャツを着ている(笑)。ジューダス・プリーストとか、モトリー・クルーとか。

 もちろん彼らの音楽にも心を奪われていたんだけど、それ以上に僕は彼らのスピリットに憧れていた。

 当時のヘヴィメタルのアーティストたちは、やはり既存の社会や政治、価値観のようなものへの反抗精神があったし、そういった楽曲も多かった。

 体制には決してなびかない、いわゆるダーク・ヒーローのような存在で。反逆児たちだった。そこに憧れたんです」

「ランディ・ローズ」より
「ランディ・ローズ」より

両親が信者だったカルト教団への反抗心

 そう憧れた意外な理由をこう明かす。

「実のところ、僕はヒッピー系のカルト教団で育ったんです。両親がカルト教団の信者だった。

 インド人の指導者がいたんですけど、彼が語る教義もまったく同意できなかった。

 みんなで手をとりあって平和に仲良く過ごしましょうみたいなコミュニティにも、なんか胡散臭いものを僕は子どもながら感じ取っていて、まったくなじめなかった。

 ここは僕の居場所ではないとずっと思っていた。こんなところからとっとと飛び出たいと思ったし、こんなところぶっこわしたいと思っていました。

 ごく普通の学校に通いながら、家ではそのようにカルト教団の中で生活していてまだ子どもだから逃げ出すことはできない。

 その中で、自分のアイデンティティがどこにあるのか全然わからなくなっていました。

 そういう中で、自分の救いになってくれたのがヘヴィメタルであり、自分の反抗心を満たしてくれるのもまたヘヴィメタルでした。

 だから、うまく理由をつけて、たとえばトゥイステッド・シスターのレコードをおねだりして買ってもらったりしていました。

 おそらく両親は、どくろのジャケットとかみて『この子は大丈夫か?』と思っていた気がします(笑)。

 ヘヴィメタルやパンクには、世の中は常にハッピーみたいなきれいごとを語ることへのアンチテーゼがある。

 僕はおそらくこのカルト教団のまやかしのような暮らしに僕は嘘くささを感じ取っていた。

 僕の感じている嘘くささを代弁してくれているのが、ヘヴィメタルの楽曲だった気がします。

 そして、ヘヴィメタルの音楽の世界にふれたとき、自分の居場所が教団以外のところにもあることに気付かせてくれた。

 なので、自分のアイデンティティをヘヴィメタルが決定づけてくれたといっても過言ではない。

 へヴィメタルが心の支柱のような存在としてありました。

 その後、僕の音楽の嗜好はヘヴィメタルからパンクへと移っていくんですけど、間違いなく僕のベースの精神にあるのはヘヴィメタルで大きな影響を受けています」

オジー・オズボーンがコウモリの頭を食いちぎったという記事が

ランディ・ローズとの出会い

 その中で、ランディ・ローズと出会ったのはいつごろだったのだろうか?

「ランディ・ローズが飛行機事故で亡くなった1982年、僕はまだ7歳だったので、リアルタイムで彼の死のニュースに触れたという記憶はないんです。

 彼の存在を知ったのは、その数年後、小学校の高学年のころだったと思います。

 学校への送迎のスクールバスに乗っているときに、たまたま手にした音楽系の雑誌に、オジー・オズボーンがコウモリの頭を食いちぎったという記事が載っていた。

 世の中にはぶっとんだやつがいると思って、興味をもって調べてみたら、『ブリザード・オブ・オズ〜血塗られた英雄伝説』というアルバムをリリースしていることを知って。それでアルバムを買って聴いたんだけど、ヘヴィでダークなサウンドにノックアウトされた。

 とりわけギターがかっこいいなと思って、クレジットをみたら、ランディ・ローズと書かれていた。

 これが彼との最初の出会いになりました」

(※第三回に続く)

【「ランディ・ローズ」アンドレ・レリス監督インタビュー第一回はこちら】

「ランディ・ローズ」より
「ランディ・ローズ」より

「ランディ・ローズ」

監督:アンドレ・レリス 

脚本・編集:マイケル・ブルーイニン

ナレーション:トレイシー・ガンズ 

出演:ランディ・ローズ、オジー・オズボーン、エディ・ヴァン・ヘイレン、ルディ・サーゾ、フランキー・バネリ、ジョージ・リンチ、ゲイリー・ムーア、ダグ・アルドリッチ、ジョエル・ホークストラ、ブルース・キューリック、ドゥイージル・ザッパ

全国順次公開中

筆者撮影以外の写真はすべて(C)RANDY RHOADS: LEGEND, LLC 2022

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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