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「なぜアメリカはウクライナ戦争を愛しているのか」を報道したインドTVにゼレンスキーが出演、台湾も引用

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
ウクライナのゼレンスキー大統領(写真:ロイター/アフロ)

 「なぜアメリカはウクライナ戦争を愛しているのか」という番組は台湾でも引用されたが、この番組を放送したインドの人気キャスターのリモート取材を、ゼレンスキー大統領が引き受け報道された。そこにはゼレンスキーの苦しい思いが滲み出ている。引用した台湾側にも複雑な心境がある。

◆インドのTVで「なぜアメリカはウクライナ戦争を愛しているのか」

 3月3日、インドの非常に著名な人気キャスターであり、Republic TV(リパブリックTV)というニュース・チャンネルなどの創設者の一人でもあるアーナブ氏が<Why Does America Love The Russia-Ukraine War? (なぜアメリカはロシア・ウクライナ戦争を愛しているのか)>を放送した。

 アーナブの語調は勢いがよく、以下のようなことを早口で力強く喋りまくった。長いので概略を書く。

 ●ウクライナ人が、より多く死ねば死ぬほど、アメリカには巨万の富が蓄積されていく。嘘と思うならロッキード・マーティンやジェネラル・ダイナミクスを見るといい。何百人ものウクライナ人が亡くなると、何十億もの大金がアメリカに入る。

 ●アメリカの人権団体は人道的な問題を叫んでいるが、しかしその同じ国・アメリカが、ウクライナ人を長引く紛争に追い込んでいる。ウクライナ人は勇敢で、強い決意で戦っているが、彼らはアメリカの金儲けゲームの犠牲者であり、大規模なアメリカの武器産業の犠牲者なのだ。

 ●誤解しないでほしいが、私は決してプーチンが正しいと言っているのではない。ロシアの天然ガスの供給が遮断されたとき、儲かるのは誰か?アメリカだ。

 ●アメリカ人が大金を稼いだ後、日本やオランダなどは、核抑止の名の下に核兵器を欲しがるだろう。そうなると世界は皆、非常に核化された、非常に危険な世界に住むことになる。

 ●前回の世界大戦中およびその後、アメリカは非常に裕福になった。彼らは広島と長崎にも爆弾を投下した。だからあなたに言いたい!もうアメリカの偽善を信じてはならないと。アメリカ人はウクライナ戦争を愛している。アメリカ人はこの戦争が決して終わらないことを望んでいるのだ。

                     (概要の文字化引用はここまで)

 たしかにインドは親露派で、モディ首相とプーチン大統領は蜜月のように仲が良い。だからと言って、ここまでストレートに歯切れよく言う人も、そう多いわけではなく、この番組は世界の多くの国で視聴され、人気を博している。

◆台湾でインドTV、アーナブのトーク番組を引用

 アーナブは、3月27日に<ウクライナ戦争はアメリカの栄光の日々を終わらせ、新しい世界秩序を生み出すのか?>というトーク番組を放送した。

 出演者の顔ぶれが興味深い。

  ●Dov Zakheim(ドブ・ザカイム):ブッシュ政権の元会計検査担当国防次官

  ●Dr. Daria Dugina:モスクワの政治学者

  ●Seyed Mohammad Marandi :テヘラン大学教授

  ●Jitendra Kumar Ojha:地政学者、インドの元外交官

  ●John Wight:ロンドンの政治コメンテーター

  ●Viktor Gao(高志凱): 中国グローバル化シンクタンク副主任

など、実に多彩だ。リモートとは言え、モスクワの政治学者が出演しているのは、やはりインドでないと、なかなか実現しないメンバーだろう。 

 これが大きな話題となり、台湾のテレビ局TVBSが3月31日に取り上げてヒートアップした

台湾のテレビ局TVBSのトーク番組から
台湾のテレビ局TVBSのトーク番組から

 台湾の番組では、アーナブに劣らず、女性キャスターが勢いよく喋りまくっている。

 台湾の番組で取り上げられたのは、以下の部分だ。

 冒頭、アメリカのザカイム氏が、「インドは人道的危機に対して中立で同情的であると言いながら、その一方では12機のSu-30航空機をロシアから購入しようとしており、おまけにルーブルとルピーで取引しようとしているではないか!」とインドへの怒りを露わにすると、キャスターのアーナブが以下のように嚙みついた。

 ――あなたのインドへの不必要な攻撃に簡単に答えよう。なんでウクライナ戦争の議論が、インドに関する議論になるのか、実にイライラする。言っておくが、インドは自分の面倒は自分で見る(アメリカの世話になっていないので、余計なことを言うな)。インドの経済はアメリカ経済の3倍から4倍の速さで成長している。あなた達(アメリカ)はウクライナにバイオ研究所を設立した人で、あなたはバイデンの息子がウクライナであらゆる種類のビジネスをしていたことを知っている人だ。あなた達はウクライナに選択肢を与える振りをしながら、結局は戦う方向に奨励している。あなた達は、ウクライナ人が最後の一人になるまで戦わせたいのだ。     

 するとザカイムが「アメリカは25億ドルの援助を(ウクライナに)提供したが、あなた達インドはいくら払ったんだい?」と挑発し、アーナブは「あれ(ウクライナ戦争)は、あなた達が始めた戦争じゃないか! ウクライナ人は武器よりも食料を手に入れたいと思っているのに、あなた達は彼らに武器を与えて、結果、彼らをより大きな窮地に追いやっているんだ」と反論。

 これに関して台湾の番組に出演していた台湾の複数のコメンテーターらは、一様にインドのアーナブの意見と勇気を讃えたが、加えて以下のような趣旨のことを言っている。

 ――インドのように自由に独立して、自国の利益に沿った発言ができるのに対して、台湾政府はアメリカの意に沿うような発言しかしない。実に情けないことだ。これでは台湾の国益を本当に守ることは出来ない。台湾はインドを見習わなければならない。

 これはまさに、日本に関しても言えることだ。

 もっとも、このテレビ局は台湾の最大野党・国民党にやや傾いている傾向にあるが、日本では大手メディアで、こういった自由闊達な議論がなされることは、あまり見られないのではないだろうか?

◆ゼレンスキーがアーナブの取材に応じてインドのTVにリモート出演

 非常に興味深いのは、ウクライナのゼレンスキー大統領が、アーナブの単独取材に応じて、彼の番組にリモート出演したことだ

 アーナブは<なぜアメリカはロシア・ウクライナ戦争を愛しているのか>というスピーチをやってのけたキャスターで、そのニュース・チャンネルの持ち主だということはゼレンスキーも知っているだろう。元芸人であったゼレンスキーは、TVに関しては詳しいはずだ。

 だというのに、そのニュース・チャンネルの番組に出演するということは、その番組の趣旨、あるいはリパブリック TVの主張に、ゼレンスキーは賛同しているということになるのではないだろうか。つまりゼレンスキーも「なぜアメリカはロシア・ウクライナ戦争を愛しているか」と心の中では叫んでいるのかもしれないのである。

 なぜなら、拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』の第五章で詳述したが、ゼレンスキーは3月4日に「今日以降の死者はNATOのせいだ!」として激しくNATOを非難しているし、又まだロシアがウクライナに軍事侵攻する前に、バイデン大統領に対して「これ以上、煽らないでくれ!」と叫んでいるからだ。

 ゼレンスキーは全てわかっていて、本当は「ウクライナ人が死ぬのはバイデンのせいだ」と言いたいのだろうが、それはさすがに言えないので、グッと呑み込んで戦っているように見える。

 だからアーナブの単独取材に応じたものと推測される。

 この点が非常に重要だ。

 ゼレンスキーは24の国や組織でリモート講演をしているが、インドはモディ首相がプーチンと仲が良く、親露であることから、インドの国会では講演していない。その代りにリパブリックTVを選んだというのは、注目しなければならない。

◆インドの言論とThe American Conservativeの主張が同じなのはなぜ?

 非常に驚いたのは、インドで人気のアーナブの主張と、4月16日のコラム<「アメリカはウクライナ戦争を終わらせたくない」と米保守系ウェブサイトが>で書いたThe American Conservativeの主張が一致しているということだ。「ウクライナの最後の一人が」という言葉を使ったことまで一致している。

 アメリカのシンクタンクの研究員が、アーナブの主張を真似するはずもなく、互いに独立に、全く異なる切り口から踏み込んでいって同じ結論に達するのは、そこに真実があるからではないだろうか。

 戦争の原因を語ったからと言って、誰一人、ロシアの味方をしているわけではない。筆者を含め、ほぼ全員が、ロシアの蛮行は許せないと断言し、その前提で「戦争が起きる原因」を追究するのは、「人類から戦争そのものが無くなって欲しい」からである。

 しかし、日本はアメリカに追随した単一思考しか容認せず、少しでも必死で原因を解明しようとして、バイデンが原因を作っているという結論に達した瞬間に、すぐさま「陰謀論」と詰(なじ)る感覚が出来上がっている傾向にある。

 これでは、日本は絶対に戦争から自由になることは出来ないし、次の戦争を起こさない方向に戦略を練ることもできなくなってしまう。それは日本国民にとって良いことなのだろうか?

 原因を正確にたどって行けば、次に犠牲になるのは日本であることが見えてくる。その思考を回避する理由は、何もないはずだ。日本の国は、日本人自身が守るしかないのだから。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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