演説でうっかり発覚…金正恩「自分だけ禁断の行為」の決定的証拠
北朝鮮の金正恩総書記は、先月末の大雨、洪水により甚大な被害を受けた平安北道(ピョンアンブクト)義州(ウィジュ)郡を再び訪れたと、国営の朝鮮中央通信が10日、報じた。
その際に行った演説の中に、次のような一節がある。
しかし、厳しい所で苦労の多い水害地域の人民に何か一つでも助けになり、不便を少しでも軽減しようとして手配したことですから、何の心配もなくすっかり安心して任せてもいいだろうと思います。
この「厳しい所」、朝鮮語の原文では「険地」(ホムジ)となっているが、この単語は北朝鮮でめったに使われない韓国式の表現だ。
金正恩氏は、韓流の影響を受けて若者の言葉が韓国化するのを食い止めるために、「平壌文化語保護法」を制定して、韓国式表現の取り締まりを行っている。ところが、当の本人が韓国式の表現を使いまくっていると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。
(参考記事:「見てはいけない」ボロボロにされた女子大生に北朝鮮国民も衝撃)
演説の様子は朝鮮中央テレビで繰り返し放送されているが、それを見た人々は驚き、また呆れているという。
「演説の始めで呼びかけによく使われる『同志のみなさん!』や『人民』という言葉の代わりに『住民』という言葉を使い、『老人』や「ヌルグニ』(年寄り)を韓国式に『オルシン』と呼んだ。『テレビ』のことも『TV』と韓国式表現を使った」
北朝鮮でよく使われる「ヌルグニ」という言葉だが、韓国では年配者を罵ったり、年配者が自身を卑下する時に使われる。韓国で、年配者を敬って呼ぶときに使う言葉は『オルシン』だが、北朝鮮ではまず使われない。「ハラボジ」(おじいさん)、「ハルモニ」(おばあさん)が敬語表現だ。
一方、「住民」という言葉は北朝鮮でも使われるが、演説の冒頭の呼びかけとして使われるのは異例中の異例だ。
北朝鮮でテレビのことはそのまま「テレビ」と呼ぶ。韓国でもかつてはそう呼んでいたが、今では「TV」というのが一般的だ。北朝鮮の街中には「テレビをTVと呼ぶ者は怪しいので通報せよ」という警告ポスターがあると言われるほどなのに、その「TV」という言葉を金正恩氏が使い、朝鮮中央通信の記事にもそっくりそのまま記述されている。
金正恩氏はこれ以外にも「病弱者」「貶毀<へんき>する」(けなすの意)など、韓国式表現を使っている。北朝鮮では「虚弱者」「誹謗」または「卑下」という言葉が使われる。
また、「飲料水」を「飲み水」の意味で使っているが、韓国ではソフトドリンクを指す言葉なので厳密に言えば韓国式ではないが、北朝鮮ではそもそも使われておらず、単に「ムル」(水)という。
情報筋は、「誰かスピーチライターがいたとしても、金正恩氏の承認なしではそんな単語を使えるはずがない」とし、「住民には平壌の言葉を使えと言っておきながら、自分は韓国語をこれ見よがしに使うのは理にかなっていない」と批判した。
いったい何故、このようなことになってしまったのか。それは金正恩氏が、韓流を視聴したり流布したりする人々を死刑にする一方で、自分は韓国の映像文化に浸りきっているからだろう。
(参考記事:北朝鮮の15歳少女「見せしめ強制体験」の生々しい場面)
北朝鮮の人々が死の危険を冒してまで韓流を見るのは、良質なエンタメの中毒という「不治の病」にかかっているからだ。「危ないから止めた方がいい」と思っても、止められないのである。
そして、自分だけは何をしても罰せられる心配のない金正恩氏は、誰気兼ねなく韓流ドラマなどを見まくっており、誰よりも重い「病」にかかっているのだろう。