40度の熱出たスタッフが入居者をケア…新型コロナで壊滅寸前の福祉施設を救った「県境なき介護団」/福祉業界の救世主、岡山から全国展開 ~土屋後編
◆事業所ごとの文化の引き継ぎ、成功の理由は
――経営主体やマネジメント層が代わることによって、それまでの歴史や文化が途切れてしまうと心配する事業者もいるかと思います。 私たちは基本的にマネジメント層を入れ替えることはしません。 引退を希望される場合は卒業していただきますが、あくまで倒産を余儀なくされている事業者の持続的経営を可能にすることを主眼にしています。 また文化の引き継ぎに関して言いますと、介護業界で働くほとんどの人が初任者研修、実務者研修、介護福祉士という資格のキャリアパスを経ています。 同じ勉強をし、共通の価値観を持ち合わせた人たちの集まりなので、事業運営の目的に大きなズレが生じることはまずありません。 実際のところ失敗した事例は1件もありません。
◆「やりがい」に甘えた低賃金はダメ。国の支援と企業努力を
――福祉業界は担い手不足と言われ続けています。介護を担う人をどのように確保していくのでしょうか。 まず必要なことは待遇改善です。 「やりがい」を低賃金の理由にしてはいけない。 そこには国の支援が不可欠なので、私たちも声を上げてきました。 結果、2024年4月より介護労働者には月6000円の賃金アップの報酬改定が予定されています。 もちろん十分ではないという声も上がっています。 ただ国の支援に頼ると同時に、私たちの自助努力で改善する必要もあります。 DX化による業務のシステム化やリモートワークを定着させることで、経営効率の改善と経費削減に努めてきました。 削減した分を働く人たちの賃金アップや、キャリアアップの天井をあげていくことに回しています。 こうした取り組みにより毎月1000名以上の応募者がありますので、仲間を増やすことはうまくいっていると感じています。
◆高齢者だけでなく、障害者や児童の福祉も
――今後の展開について構想などありましたら、教えてください。 2023年11月に5期目を迎え、三大福祉と言われる障害者・高齢者・児童のすべてを事業領域とすることを決めました。 それに伴い「オールハッピーの社会を実現するために、永続するトータルケアカンパニーへと進化する」というビジョンを策定しました。 利用者のご家族や関係者を含めたすべての人々をハッピーにするべく活動をしてまいります。 その一環で高齢者分野においては、「定期巡回随時対応型訪問介護看護」という24時間、365日対応サービスも手がけていきます。 同時に拡大路線も継続します。 全都道府県に拠点はできたものの、カバーできていない地域はたくさんあります。 私たちのサービスが全国の人にとって身近なものになるよう、さらに「仲間」を増やしていきたいと考えています。
■プロフィール
株式会社土屋 代表取締役 兼CEO最高経営責任者高浜 敏之(たかはま としゆき) 慶応義塾大学文学部哲学科卒 美学美術史学専攻。 大学卒業後、介護福祉社会運動の世界へ。 自立障害者の介助者、障害者運動、ホームレス支援活動を経て、介護系ベンチャー企業の立ち上げに参加。 デイサービスの管理者、事業統括、新規事業の企画立案、エリア開発などを経験。2020年8月に株式会社土屋を起業。代表取締役CEOに就任。
(文・構成/大島七々三)