定年退職後に学んだほうがいい学問…高齢者のリスキリングで失敗する人しない人の「決定的な差」
定年退職後も仕事を続けるためには、社会の変化に応じて自らのスキルを引き上げ、新しい能力を獲得する必要があります。学び直しであり、最近では「リスキリング」と呼ばれています。 【写真】これから給料が「下がる仕事」「上がる仕事」全210職種を公開 高齢者はリスキリングで何を学ぶべきなのでしょうか。経済学者として日本経済を観測し続け、大ベストセラー『「超」勉強法』をはじめ、独自の勉強法を編み出してきた経済学者、野口悠紀雄氏が、「人生100年時代の勉強法」を伝授した『83歳、いま何より勉強が楽しい』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けします。
事業者への補助に終わらせないためには
他方で、理工系の人が勉強した数学は、解析学(微分積分学)が中心になっています。統計学については、十分に勉強ができていないのです。統計学の分析が、理系の人にとっても文科系の人にとっても重要だと言うのは、そのためです。 なお、後で述べますがChatGPTが、リスキリングに大きな影響を与えます。 リスキリングが重要であると、さまざまなところで言われています。岸田文雄首相も、リスキリングの支援に5年で1兆円を投じるとしました。 こうした時世を背景に、リスキリングのためのオンラインセミナーが、多数提供されています。そして、政府や自治体による補助制度がいくつも作られています。企業がこうした補助金を受け、社員にセミナーを受講させるという動きが広がるでしょう。 それによって、社員の知識は広がるかもしれません。しかし、単にセミナーを開催したところで、社員のスキルが向上する保証はありません。結局は、オンラインセミナー事業者への補助だけで終わってしまうことにはならないでしょうか? リスキリングのために勉強をするのは、大変よいことです。しかし、何を学ぶかが問題です。 多くの企業が準備しているリスキリング・プログラムを見ると、AIやデータサイエンスなど、先端分野の動向を学ぶといった内容のものが多いようです。こうしたことは、一般教養講座としては意味があるでしょう。しかし、仕事に役立つかどうかは、大いに疑問です。 リスキリング教育の内容を見ると、首をかしげたくなるようなものが多いのです。デジタル利用といっても、普通の人の多くの仕事について、実際的にデジタル技術を使うわけではありません。 例えば、営業の仕事をするにあたって、AIの知識はあまり必要ではありません。AIに関する知識をいくら広げても、それだけで営業活動に十分であるわけではありません。もっと重要なのは、どうやって相手に興味を持ってもらい、分かりやすく説明するかといった類のことでしょう。そうした事柄について深く学ぶのであれば意味があります。 しかし、営業の仕事についても、Zoom会議をするというようなことは必要になります。ですから、Zoom会議のやり方に慣れる必要があります。それだけではなく、Zoom会議の場合には、通常の営業活動とは違う方法があるでしょう。 こうしたことを学ぶには、企業が用意するプログラムでは限度があります。自分が必要とするリスキリングを自分で探し出してくる必要があります。標準的なカリキュラムはありません。誰にとっても同じような内容を学べばよいわけではないからです。 さらに、時とともに学ぶべき内容が変化しますし、現在の水準は人によって異なります。ですから目標としてどれだけの水準を目指し、そこにたどり着くのにどれだけの勉強が必要かは、人によって違います。このように、カリキュラムの選択は、難しいことです。