金子3失点でもメジャーの評価は上昇
メジャー仕様に入れ替えられた東京ドームのマウンドの土と、サイズが大きく、しかも滑るメジャーの公式球……。ブルペンの段階で、もう金子千尋は当惑していた。 「ボールが抜けないようにと練習の段階から意識していた。いつもの金子さんとは違いました」とは、愛妻の伊藤光の証言。 二回だった。先頭の“4番”エバン・ロンゴリア(29歳、レイズ)に右前打を許すと、続くジャスティン・モーノ(33歳、ロッキーズ)に対して、ツーシームをうまく誘い球に使って追い込んだが、勝負球のスプリットが落ちすぎた。明らかにボールゾーンからのワンバウンドになると、今季のナ・リーグの首位打者は、バットを出してくれなかった。 「レベルが高いから同じボールに2回は振ってくれない」(伊藤) フルカウントとなってからの甘いシュート。快音を残した打球は、追撃の2ランとなってバックスクリーンに消えていった。 「バッターと勝負するというよりストライクをとりにいってしまった。そこは反省点」 金子自身が、そう反省した痛恨の1球だが、これもメジャー球に不慣れでなければありえないような、落とし方のミス。カーブがポンと抜ける。ツーシーム、スプリットは、逆に落ちすぎた。そういう制御不能の状態でも、7色の変化球を持つ金子にすれば、全滅ではなかった。初回トップバッターのベン・ゾブリスト(33歳、レイズ)をスイングアウトの三振に斬ってとったチェンジアップだけは使えた。 「チェンジアップだけは、コントロールができた」と、そのボールをカウント球とウイニングショットに使い、4イニングを悪いながらも毎回の4奪三振で3失点に抑えた。 小久保監督も「シーズンに比べると状態は悪かったと思うが、悪いなりにゲームを作ってくれたので逃げ切ることができた」と勝利投手の健闘を称えた。 「まっすぐがいかないと苦しい。初戦をいい形で勝ったので、そのいい流れに乗りたかったのだが、点を取られたのは反省。3点を取られた後は、傷口を広げないピッチングができたのでその点はよかったけれど、メジャー打線は、甘く入ったら、しっかり捉えられるなという印象を持った」 金子は淡々とコメントした。 オリックスバッテリーを侍ジャパンで実現した伊藤は「球威は悪くなかった。球数制限がなければ、7回を3失点にまとめられたと思う。本当はもっとコントロールのいいところを見せ付けたかったけれど……もう一回投げろと言われれば、しっかりと抑えることができると思う」とかばった。 彼の言葉は決して“たら、れば”ではないと思う。初の国際試合。あのマー君でさえ、WBC球に慣れるまで何試合を要したか。金子も、メジャー球に慣れず制球には四苦八苦したがその中でもチェンジアップという十二分に通用するボールをひとつ見せただけで収穫だろう。