【台湾】米国への経済的代価、増大か 「トランプ2.0」と台湾(上)
今年11月の米大統領選でトランプ前大統領が当選し、「第2次トランプ政権(トランプ2.0)」が発足した場合の台湾への影響に注目が集まっている。台湾の政治大学東亜研究所の王信賢教授は、台湾に要求する経済的代価が大きくなると予想する。「トランプ氏の当選によって台湾有事が発生するとは思わない」とする一方で、長期的には米国の国力の衰退につながり、台湾が安全保障面で米国に完全に依存する場合は影響が避けられないとの見方を示した。 王氏は、トランプ氏が当選した場合は「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」の政策が前任期より強化されるはずだと指摘。トランプ氏は2020年大統領選での落選を踏まえ、国内産業の振興や米中貿易を通じて経済を立て直そうとするとした。 具体的には、関税をさらに引き上げると予想。ただトランプ氏は経済貿易や関税の分野であれば話し合いが可能であり、このことは中国だけでなく台湾や日本、韓国にも当てはまるとの見方を示した。 また米国の経済的利益を最大化するために、より多くの産業を米国に呼び込む方針を強化すると予測。台湾にもより多くの投資を要求するとみられるが、トランプ氏はEMS(電子機器の受託製造サービス)世界最大手の鴻海精密工業が米ウィスコンシン州での投資を縮小した件を踏まえ、「警戒を強めるはずだ」と予想。安全保障面で米国に依存する度合いが高い国は米国に求められる代価も大きくなるとして、「台湾は、代価を支払うことができるのか、米国の要求を満足させられるのかという問題に直面することになる」と述べた。 一方で、トランプ氏が当選した場合「米国が中国に圧力を加えれば加えるほど台湾にとって良い」と考えることはできないと強調する。「トランプ氏は米国を核心として二国間の関係を構築する主義で、他国・地域との関係を一対一で見ているため、中国と同時に台湾に圧力を加えることもあり得る。米国の利益を核心に全ての国から利益を得ようとする」と説明した。 ■戦争回避が「最大の利益」 台湾有事については、「中国の習近平国家主席の現在の態度からみれば、台湾が独立を宣言さえしなければリスクが高過ぎることはない」と分析。中国にとって台湾に対する武力行使は最後の手段だとの見方を示した。 また中国にとっても米国にとっても、戦争が発生しないことが最大の利益になると指摘した。米国にとっては戦争が発生しないことで台湾を中国との交渉材料にすることや、台湾により多くの武器を買わせることも利益になると説明。民主党も共和党もこの利益の下で一定のバランスを維持しているとして、「トランプ氏が当選することで台湾有事が発生するとは思わない」と述べた。 さらに、米国はどの政党が政権を握ったとしても、両岸(中台)関係に対しては「一つの中国」政策を維持するとし内政不干渉などをうたった米中の「三つの共同コミュニケ」、台湾への防衛支援などを約束した米国の「台湾関係法」、防御性武器の供与には期限を設けないことなどを盛り込んだ「六つの保証」の3つを基礎とすると強調。ただどこに重点を置くかは状況によって異なり、米中関係が比較的良好な時には三つの共同コミュニケがより重視され、比較的悪化している時には台湾関係法と六つの保証が頻繁に取り上げられるとした。一方で「どれかを完全に無視することは米中間の政治的基礎の破壊につながるためありえない。いずれも最低ラインとして守られている」と指摘し、トランプ氏が当選した場合は「この最低ラインが少し変化する可能性はあるが、軍事的圧力が大きく強まるとは思わない」との見方を示した。 ■トランプ氏当選なら「米の国力衰退」 王氏は中国側の思惑についても分析。中国では昨年末から今年初めにかけて多くの学者がトランプ氏の当選も「悪くない」と考え始めたと紹介した。 王氏によると、その理由としては◇トランプ氏は核心的利益以外の面では取引が可能である点◇トランプ氏が当選した場合、日本や韓国、NATO(北大西洋条約機構)による米国への不信感が強まるかもしれず、中国にとってはチャンスである点◇トランプが当選した場合、米国の内政や社会が混乱し、対立や分断がより深刻になることで、長期的には米国の国力が削られる点――の3つを挙げた。 王氏も「トランプ氏が当選した場合は国内の分裂が激化し、長期的には国力の衰退につながる」と予想。現在のように安全保障面で米国に完全に依存する状況では、台湾は将来的に必ず影響を受けるとの見方を示した。 <プロフィル> 王信賢 1970年生まれ。政治大学東亜研究所博士。両岸関係、政治社会学、比較政治などを専門とする。