亡くなって早や12年…妻が明かす「夫・金子哲雄が2つのハードディスクしか遺さなかった理由」
二人の時間を大切に…
不思議なもので、たくさんのものが残っているよりも、何も残されていないほうが夫のことをよく思い出せる気がするんです。モノに思い出を託さないぶん、頭のなかにしっかりと二人の思い出が記憶が刻まれているというのか……なかなか人に勧められることでもありませんが、できるだけモノを少なくしておくというのは、故人のためにも、遺された人のためにも悪いことではないように思っています。 モノよりも夫が遺そうとしてくれたのは、二人の時間でした。夫とは亡くなるまでの間、いろんな話をしました。それも、夫が自分の死をしっかりと受け止めていたからできたこと。これまでの二人の思い出についてはもちろん、自分が亡くなったあとのことについてもたくさん話をしました。その時間をたっぷりと取ったから、私にも悔いは残っていませんし、夫との結びつきもそれまで以上に強くなったように感じています。
「私が死んだらどうする?」と聞いてみる
<稚子さんは、夫・哲雄さんの死後「終活ジャーナリスト」として、死の前後に関わるさまざまなアドバイスを行っている。自身の経験を通じて、死や死後のことを考えておく重要性を知ったからだ。なかでも、「夫婦でお互いの最期について話をしておくことは本当に重要なことです」と指摘する> 自分の経験を通じて、死について話し合うことは夫婦の結びつきをより強くする行為だと思うようになりました。夫や妻と「死ぬまでのこと」「死んだあとのこと」について話し合うのは、なかなか面映ゆいところがあるかもしれません。ただ、冗談ぽくでもいいので、一度「私が死んだら、どうする?」と聞いてみて、そこから仮の話をしてみるのもよいのではないでしょうか。 夫は私にモノは遺しませんでしたが、たくさんの思い出や、経験、それから私自身が「これからすべきこと」を遺してくれました。夫のおかげで私は人の死について考えるようになり、こうして誰かに終活についてアドバイスをするようになったのです。私の人生を支え続けてくれている夫には、いまも感謝しかありません。毎日心の中で、『ありがとうね』と伝えています。
週刊現代(講談社)