求人数の急増から見る米国の「深刻な医師不足」
米ハイテク業界では名の知れた企業によるレイオフが定期的に続き、ニュースになっている。だが全体的に雇用は好調だ。体験やサービスなどへの消費支出に対応する、多くの非テック系のサービス部門が牽引している。 ハイテク業界の雇用の停滞は目立つが、それは労働市場全体を代表するものではない。求人情報のIndeed(インディード)のHiring Lab(ハイアリング・ラボ)によると、ハイテクやホワイトカラーの専門職は労働市場全体のごく一部を占めるにすぎないが、社会への影響は極めて大きいためレイオフの発表は毎回大きな反響を呼ぶ。 Indeedが追跡している47業種中39業種(83%)の大半、特に対人サービス職の採用意欲はパンデミック前の水準と比べて依然旺盛だ。 ■Indeedの求人動向 今年2月時点でのソフトウェア開発などハイテク関連部門の求人は、パンデミック時のピークから大幅に減少し、パンデミック前と比較して25%減少している一方で、他の多くの部門の求人は以前より大幅に増えている。 興味深いことに、最も求人が増えた部門は医師・外科医(102%増)、保育(80%増)、美容・健康(67%増)だ。これは対面サービスに引き続き需要があることを反映している。
医師・外科医の求人増の背景
マーケティングや人事、メディアなど、技術職以外の専門職のIndeedへの求人掲載はパンデミック前より減少している。 ■医師・外科医の求人増の背景 医師と外科医の求人はパンデミック前の基準値の2倍以上に増えており、他の職種より圧倒的に多い。その理由は以下の通りだ。 1)人材不足 高齢化に伴い、医療サービス、特に医師や外科医が提供することの多い専門医療への需要が増えている。具体的には、米国医科大学協会(AAMC)の最近の調査で、米国では65歳以上の人口は2036年までに34.1%増加すると予測され、高齢患者のケアにより多くの専門医療が必要になる傾向が示された。 AAMCの報告書ではまた、医師の雇用が急増しない限り、米国は2036年までに推定で最大8万6000人の医師不足に直面すると指摘されている。 報告書によると、現役の医師の多くが今後10年以内に定年を迎える。そうした医師の後任が必要となり、医師や外科医の需要が高まっているのだ。 長時間労働や生産性のプレッシャー、ワークライフバランスの悪化などが医師の燃え尽き症候群につながっている。これが原因で早期退職や完全に医療から離れる医師も出てきており、医師不足と求人増に拍車をかけている。 医学部や研修医制度の数は限られているため、医療界の人材はすぐに補充できるわけではない。 2)米国の人口増加 米国の医療需要を満たすためにより多くの医師を必要とする主な要因は、引き続き人口動態だ。 米国勢調査局によると、米国の人口は昨年、0.5%増えて3億3491万4895人を記録した。多くの州で、2023年はパンデミック以降最も人口が増えた年となった。2036年には人口は8.4%増加するとAAMCは予測している。 同局の人口担当部に所属する人口統計学者、クリスティー・ワイルダーは、昨年の人口増は移民の数がパンデミック前の水準に戻ったためだと指摘した。 加えて、AAMCは医師需給に関する報告書に「もし、国の医療制度を十分に利用できていない人々が、医療を受けやすい人々と同程度の医療を受けられるようになるとすれば、2021年時点よりも約20万2800人多く医師を必要とすることになる」と書いている。 滞在許可証を持たない非正規移民の医療利用は全体的に少ないが、保険未加入率が非常に高く、言葉の壁や交通手段の欠如、国外退去の恐れ、あるいは医療を受けるために仕事を休むことができないなどの理由から治療の遅れにつながっている。そして、そのまま症状が放置されると、より複雑で費用のかかる医療が必要となる可能性がある。 保険適用の拡大による公衆衛生上のメリットと相まって、このような満たされていない医療ニーズにより、非正規移民への保険適用を拡大する州が増えている。その結果として、非正規移民の医療サービスの需要を増大させているのだ。
Jack Kelly