〈鹿児島県警の闇〉強制性交容疑事件で女性が初証言 「私は告訴状を突き返された」
事件もみ消し疑惑再び
【事件もみ消し疑惑再び】 県警は7月19日の県議会で、別の「身内」の事件もみ消しが疑われる失態も認めた。 霧島署の50代男性署員が昨年2月、クリーニング店の20代女性に名刺を渡し、つきまとい行為をしたとしてストーカー規制法違反容疑で同10月に書類送検され、不起訴となった。県警は署員を「所属長による口頭厳重注意」としたが、証拠となる防犯カメラの画像を消去していたのだ。 県警本部の末廣政春人身安全・少年課長は「画像のコピーを入手し、被疑者である警察官の車両が写り込んだ箇所は静止画で保存した。それ以外は不要と判断して消した。これが一番の問題」と認めた。証拠保全措置をせず、画像の元データも消去されたという。 書類送検は、地元紙『南日本新聞』が昨年10月、スクープしたが、県警は9カ月間公表していなかった。同じ霧島署では本田尚志前生活安全部長の内部告発で、30代男性署員による巡回連絡簿で入手した電話番号をつかった女性へのストーカー容疑事件が発覚。7月19日の審議では、野川明輝本部長がこの30代署員を「本部長訓戒」処分にした、とも認めた。一転公表した理由を、県警側は「公表による公益性が、当事者の名誉、プライバシーの権利を上回ると判断した」と答弁したが、実態は違う。 県警は昨年10月、13歳未満の少女への強制性交容疑で男性巡査長を逮捕した際、カメラ撮影がある記者会見を開かず記者レク(説明)ですませ、県警記者クラブから現職警察官の逮捕時は記者会見を開くよう申し入れを受けるほど「不祥事を説明しない組織」だった。藤井光樹元巡査長、本田前部長の記者への内部告発は、こうした不透明な組織風土で起きた。 県警には疑惑が報じられてから2400件超(7月末時点)の意見が寄せられ、大半が警察批判だという。メディア、市民の「目」が、闇に光を当てることを求めている。 【第3の内部告発者登場】 霧島署の50代署員によるストーカー容疑事件で、証拠や書類が次々消えた。情報提供者は藤井元巡査長、本田前部長に次ぐ「第3の告発者」たち──。『西日本新聞』は県議会直前の7月17、18日、ハンターと「同着」でスクープを放った。 『西日本』によると、県警は「署員が目撃された当日の分だけデータがない」「客観的証拠がない」と被害女性に伝えていた。霧島署が女性の相談に応じた際つくった「苦情・相談等事案処理票」も、一晩たったら県警のシステムから消えた、と元署員が証言した。 県警は19日の議会で事件公表に追い込まれた。当時の霧島署長に対し、署が作成すべき「苦情・相談等事案処理票」も作らず「対応が不適切だった」として「業務指導」したと明かした。 『南日本新聞』は7月13日から「検証 枕崎盗撮捜査」を2回連載した。警察官の関与が疑われるのに、県警本部主導で捜査する「本部長指揮事件」とせず、本部長が「署で捜査を尽くせ」と指示をしたとする県警側の説明に、現職警察官や元捜査幹部から「常識では考えられない判断」との声が上がったと報じた。捜査開始から逮捕まで5カ月もかかった「理由が分からない」と疑問視する県警内部の声も紹介した。 警察庁による特別監察が終わった8月2日、県警は一連の非違事案の再発防止策を発表した。「県警の闇」を記者に知らせた藤井元巡査長、本田前部長の2人と、盗撮やストーカーをした警察官を同列に扱い、「職責、倫理観の欠如」「個人情報保護の認識の欠如」などを原因とした。 「疑惑が晴れたと考えるなら大きな誤りだ」。『読売新聞』も8月3日の社説で、本部長による不祥事隠蔽疑惑に踏み込んで調べなかった再発防止策を批判した。「内部調査の限界」と断じ、「第三者による再調査」を提言した。 野川本部長は7月19日の質疑で、本田前部長になぜ名指しで隠蔽疑惑を訴えられたのか、と問われ、答えた。「思い当たる点はございません」。それなら、自ら検証し、市民に説明するべきだ。 闇はまだ深い。 (『週刊金曜日』政治時評拡大版)
長谷川 綾 ・『北海道新聞』記者