開業時の東海道新幹線は「時速160キロ運転」だった!? 「本気出さない運転」だった理由とは
1964年に開業した東海道新幹線は、時速200キロ超の営業運転を可能とした、世界で初めての高速鉄道です。鉄道史に残る新幹線は、10月1日の開業時から、最高速度の時速210キロで、大勢の旅客を東へ西へ運んだ……と言いたいところなのですが、開業時の東海道新幹線は、時速160キロで走る、「ちょっと速い程度」の路線でしかありませんでした。 【表で見る】東海道新幹線のスピードアップの歴史 なぜ開業時から時速210キロ運転ができなかったのか、というと、着工から開業まで5年という短期間で工事が進められた東海道新幹線は、開業時でも線路の路盤が固まりきっていなかったためと言われています。 新幹線の開業当時のダイヤは、東京~新大阪間を「ひかり」が4時間、「こだま」が5時間で走破するもので、在来線時代の特急「こだま」(東京~大阪間6時間30分)より所要時間は短くなっているのですが、新幹線の本領発揮とは言えませんでした。ただし、時速160キロで走ると定刻で運転できるダイヤが組まれていたものの、絶対に時速210キロ運転ができなかったわけではなく、遅延時には最高速度での運転が可能でした。 当初はスロー運転だった東海道新幹線も、路盤が安定したことを受けて、1965年11月にダイヤ改正を実施。晴れて時速210キロ運転が本格化し、「ひかり」は東京~新大阪間を3時間10分、「こだま」も4時間で結ぶダイヤとなりました。その後、後継車両のデビューや「のぞみ」の運転開始などを経た東海道新幹線。現在の最高速度は時速285キロで、東京~新大阪間の所要時間は最速2時間21分となっています。 さて、スローな高速鉄道として開業した東海道新幹線ですが、開業日の上り1番列車では、堂々たる時速210キロ運転が行われていました。当時連結されていたビュフェ車(軽食などを提供する車両)には、乗客向けの速度計が設置されており、時速210キロで走る瞬間を皆が待ちわびていたのだとか。乗客の想いに応えた当時の運転士は、一部区間であえてスピードを落とし、その後に「遅延回復」として時速210キロまで加速したそうです。ただし、最終的には東京駅に早く着きそうになってしまい、東京駅手前では並走する山手線に抜かされてしまうほど、ゆっくり走ったのだそう。今では考えられない、おおらかな時代のできごとです。
西中悠基