ポートタワーとスマシー、制服デザインに「神戸らしさ」 細部にこだわり、機能性も追求
2024年にリニューアルオープンした「神戸ポートタワー」(神戸市中央区)と「神戸須磨シーワールド(スマシー)」(同市須磨区)。神戸を代表するスポットとしてにぎわいを見せる2施設には、ある共通点がある。それは、従業員の制服デザインをそれぞれ、地元企業が手がけていること。「神戸の魅力を届けたい」。デザインした2社の担当者らに、制作秘話やこだわりのポイントを聞いた。(谷口夏乃) 【写真】制服の背中部分には、ポートタワーのシルエットがプリントされている 24年4月、約2年7カ月に及ぶ改修を経て、神戸港のシンボル「神戸ポートタワー」が再オープンした。施設は通販大手のフェリシモ(神戸市中央区)が企画運営し、制服も同社ファッション事業部の三宗千尋さん(45)と白藤悠介さん(45)がデザインした。 男女兼用でナイロン地のロングコート。神戸の夜の海を意識したダークネイビーを基調とし、背中には夜の海に浮かび上がるポートタワーのシルエットをプリントしている。左肩には赤字で「KOBE PORT TOWER」のロゴ。屋外での着用も想定し、撥水加工を施している。赤い靴下には、白いポートタワーの刺しゅうがある。 デザインのベースとなったのは、神戸ファッション美術館(同市東灘区)が所蔵する20世紀初頭のオランダの男性衣装だ。「神戸全体の観光地をPRする機会にしよう」とデザインのヒントを求め、同館に足を運んだという。2人は「『かっこいい』『販売してほしい』などのうれしい声も聞いている。いい制服が作れたと思う」と語る。 ◇ スマシーは6月、水族館を核にホテルなどを併設する大型レジャー施設に生まれ変わった。制服のコンペを勝ち抜いたのは、アパレル大手のワールド(同市中央区)。デザイナーの杭田亜紀さん(56)は、神戸市立中学校の標準服(制服)を手がけた経歴を持つ。 主な3職種(水族館の飼育員、館内スタッフ、ホテルスタッフ)の制服を製作した。「今までと違うものに」と、水族館の制服で多用される青系の色をあえて使わず、モノトーン中心のシックな色合いを採用。洗練された神戸の街のイメージを表現したという。 飼育員のポロシャツは、同館の目玉の一つとされるシャチがモチーフだ。シャチのダイナミックさを大胆な色の切り替えと配色の濃淡で表した。館内スタッフのシャツは、胸元にシャチの尾びれの刺しゅうを入れ、ボタンは港町らしく、いかりマークが刻まれたものを選ぶなど、細部にこだわりが光る。 機能性も忘れていない。施設側から「館内スタッフがホテルでの接客もできるように」と依頼され、シャツの前立てを工夫し、ジャケットを着た時にネクタイを着用してるように見せた。生地も動きやすいジャージー素材を使用した。 杭田さんは「神戸出身かつ地元企業として絶対にデザインしたいと思っていた。ユニホーム会社にはできない、アパレルならではの提案ができた」と話した。 ■定着するファッション性重視 制服を採用する企業では近年、機能性に加え、高いファッション性を重視する傾向が定着しつつある。社員の働くモチベーションを維持したり、採用活動に役立てたりする狙いがあり、アパレル会社やファッションデザイナーが制服刷新を請け負う事例も目立つ。 ワールド(神戸市中央区)は約10年前から「ユニフォーム事業」を展開し、ブランド開発や商品製造で培ったノウハウを活用。これまでに洋菓子のユーハイム(同)や遊園地「よみうりランド」(東京)、化粧品会社アルビオン(同)などの制服をデザインした。 ワールドによると、最近のデザインは、多様性を重視して年齢や性別を問わずに着用できるものや、企業理念やブランドイメージをより体現できるもののニーズが高いという。また、環境負荷の低い素材を使ったり、使用済み制服を回収したりして、企業の環境対策の一例とする企業もある。 制服のデザインを手がけることは、デザイナー側にとっても利点があるようだ。ワールドで30年以上デザイナーを務める杭田亜紀さんは、素材への意識が向くようになったという。消費者がUV(紫外線)カットや撥水性などの機能性を服に求める声は珍しくなく、「新しい素材や視点に出合える学びがある」と話す。