<リオ五輪>重量級に初の金メダルをもたらした土性の強さとは?
ところが、日本代表選考では勝てるのに、世界選手権で頂点に立てない。タックルを武器に得点を重ね、特に外国人に対しては圧倒的な強さを誇る吉田と同じ成り立ちのタックルを持つならば、対外国人選手には有利なはずではないのか。土性はその違いを自ら「最後まであきらめない気持ちの差」だと分析していた。 「沙保里さんも、(登坂)絵莉さんも、去年の世界選手権決勝では接戦でした。でも、最後まであきらめない気持ちが強い。私にはまだ、そこが足りなかったんだと思う」 しかし、リオ五輪の決勝舞台に立った土性は違っていた。 「自分より前に試合を終えていた絵莉さんと(58kg級・伊調)馨さんの二人ともが、最後の最後まであきらめずに逆転勝利したことで自分も、と気持ちを強くしました」 目の前で、先輩たちが最後の最後まであきらめず逆転で金メダルを奪っていく様を見て、土性にも何かが宿った。決勝では、消極的な姿勢から警告を受け、30秒の時間でポイントを奪わねば相手にポイントが行くというアクティビティタイムを科せられ、2度、攻めきれずに2ポイントを渡した。だが、試合終了30秒前に吉田の父から直伝された片足タックルでテイクダウンを取った。先輩たちに負けない逆転劇である。ロンドン五輪金のボロベワ(ロシア)のしつこい腕取りにもめげなかった。以前なら、大きな体の密着作戦に、先に我慢ができなくなって足下がふわふわして失点していた展開だ。だが、土性は、リオで覚醒した。 日本の女子レスリングは、誰もが認める世界最強を誇るが、重量級だけは、これまで金メダルを奪うことができなかった。そもそも選手がそろわずに諸外国の後塵を拝してきた。土性も元はといえば、ひとつ下の階級である。土性の快挙は、日本の他の重量級選手たちへ刺激を与え、4年後の東京五輪へ本物の女子レスリング王国が築かれるかもしれない。 (文責・横森綾/フリーライター)