高橋ヨシキが映画『アイアンクロー』と『プリシラ』をレビュー!
日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』! 「呪われた一家」と呼ばれたプロレスラー一家の数奇な運命!&エルヴィス・プレスリーの元妻の波乱の日々を描く! * * * 【写真】『プリシラ』のレビューにも注目! 『アイアンクロー』 評点:★4点(5点満点) マインドセットという牢獄 「家族は何よりも大切だ」「良い子供は親の言うことを素直に聞くものだ」「困難には家族が一丸となって立ち向かうべきだ」といった「モラル」が、場合によっていかにトキシックなものと化すかを描いてぞっとさせる。 本作の一家の長は「アイアンクロー(鉄の爪)」という必殺技で一世を風靡したプロレスラー、フリッツ・フォン・エリック。 自分が獲得できなかったヘビー級王座の夢を子供に託すフリッツは、息子たちを次々とプロレスの世界に投入、別のスポーツをやっていたり、ミュージシャンを希望していた子供たちも「親の言うことを素直に聞いて」リングに上がるようになる。 恐ろしいのは「家族のモラル」を内面化した子供たちが唯々諾々と「親の言うことに素直に従った」結果、どんどん精神的に追い詰められて壊れていくが、「良いこと」をしている前提なのでなぜそこまで苦しくなるのか自分で認識できないという点にある(これは宗教に逃避している母親も同様)。 恐怖の源泉を「毒親」ではなく「内面化されきって意識に浮上しないマインドセット」に置いたところに本作の凄すごみがある。我々も自分で自分の囚人になっていないか、問いかける作品である。 STORY:80年代初頭。元AWA世界ヘビー級王者のフリッツ・フォン・エリックに育てられた兄弟たちは、父エリックの教えに従いプロレス界の頂点を目指す。だが、三男デビッドが急死したことを皮切りに、エリック家は次々と悲劇に見舞われる 監督:ショーン・ダーキン出演:ザック・エフロン、ジェレミー・アレン・ホワイト、ハリス・ディキンソンほか 上映時間:132分 全国公開中 『プリシラ』 評点:★2.5点(5点満点) 空疎な人たちが織りなす空疎な「おとぎ話」 14歳でエルヴィス・プレスリーと出会い、その後結婚し、子供をもうけ、離婚したプリシラ・プレスリーの数奇な半生を淡々と綴る映画である。 彼女が突然それまでの日常から切り離されて「グレイスランド」の豪邸に放り込まれてしまう状況には、イギリスの映画評論家マーク・カーモードが指摘するようにヒッチコックの『レベッカ』(1940年)を思わせる「ゴシック・メロドラマ」感が漂う。 本作は注意深く作られた映画で、たとえばエルヴィスやプリシラを怪物のように、あるいは単なる犠牲者のように描いて構図を単純化することを避けているが、内面に踏み入らず事象を並べるに留とどめたことで空疎さばかりが強調されることになった。 もちろん、それは意図してそうしていると思うが、結果としてエルヴィスもプリシラも魅力と奥行きを欠いた、空っぽな人間にしか見えなくなってしまった。 そのことで生じる「フェアリー・テイル感」こそがこの映画の目指したところだとすれば、それは成功していると言わざるを得ないが、おとぎ話は何かのメタファーとして機能するのであって、「現実にあった『おとぎ話』の中心はただただ空疎だったのでした」だけでは物足りさが残る。 STORY:エルヴィス・プレスリーの元妻による自伝の映画化。14歳の少女プリシラはエルヴィス・プレスリーと恋に落ちる。両親の反対を押し切りエルヴィスと暮らし始めたプリシラは、スーパースターの色に染まることにすべてを注ぐが......。 監督・脚本:ソフィア・コッポラ出演:ケイリー・スピーニー、ジェイコブ・エロルディ、ダグマーラ・ドミンスクほか 上映時間:113分 全国順次公開中