漬物製造断念の農家、最終日を追う ナスを厳選、売り切れる量だけ 大阪の中西さん
直売所向けに20年間、漬物を作ってきた大阪府熊取町の中西友子さん(76)が31日、漬物製造業から撤退した。夫の勝則さん(79)と栽培してきた野菜を漬物にして送り出す最終日の朝を追った。 【動画】手作り漬物最後の日 熊取町など大阪府南部の泉州地域は、水ナスの栽培が盛ん。同地の食文化に欠かせず、JA大阪泉州の直売所「こーたり~な」(泉佐野市)には水なす漬けだけで4、5戸が出荷する。中西さんは生果の他に、水なす漬けを同店で4~9月に販売する。 31日の朝も、いつも通り早朝から作業を始めたが、違ったのは出荷量を減らしたこと。営業許可がないと1日以降は販売できないため、通常の40~50袋を30袋へと、一日で売り切れる量にした。友子さんは、午前5時半から1時間かけ、収穫した水ナスから丸々と太った見栄えの良いものを厳選していた。 午前7時、友子さんは水ナスを作業場の外にある流し台で水洗いすると、塩もみ。「手間かかるんやけど、これももう今日でしまいや」。寂しそうに言い、袋に取り分けていたぬかにナスを入れ、丁寧にもみ込んだ。 水なす漬けの包装には友子さんが考案した袋を長年使う。袋には「農家の作ったごはんの友 水なす 浅づけ 勝」と書いてある。夫妻の名前を漢字1字ずつ入れた大切な品だ。「最後はこの袋でお客さんに届けたくて、切らさないように残してきた」と、目を細めた。 友子さんは他に、白菜漬けやダイコンのゆず漬けなど漬物7種類ほどと、野菜を出荷していたが、漬物の撤退で売り上げの半分を失う。しかし「お金より、自分の味で販売できることにやりがいを感じていた。おいしいと言ってくれたから続けられた」と言う。 保健所からは、流し台の屋内移設と原料の殺菌設備が必要と指摘された。大規模な改修は必要なかったが、年齢的に投資した分を回収するのは難しいと判断し、出荷をやめると決めた。漬物は親類や友人に配るために作るという。 同店の若狭康之店長によると、JAは許可取得を促したものの、漬物出荷者14人のうち半数が31日で撤退した。水なす漬けはJAでも製造しており、若狭店長は「著しい減少はない」とみるが、「味の好みで固定客がいた中で選択肢が減るのは残念」と話した。(木村泰之)
日本農業新聞