デジタル化が進んでも「三菱鉛筆」が過去最高売上高を達成した理由 「自分は弱いって知ってますから」老舗の6代目
日本人なら誰もが知る鉛筆「uni」を製造する老舗文具メーカー「三菱鉛筆」。6代目の数原滋彦社長は、2020年に41歳の若さで先代の父から会社を承継しました。デジタル化とコロナ禍という逆風の中、2022年度に過去最高売上げを達成しています。今年、独高級筆記具「LAMY」を連結子会社化した数原氏に、社長就任への道のりと、「表現に寄り添う」新事業について聞きました。 【動画】鉛筆「uni」、ジェットストリーム、ポスカ、ロングセラーの秘訣とは
◆コロナ禍で社長就任、「つらい状況」
野村総研に勤めていた2005年、当時社長だった父から「そろそろ三菱鉛筆に戻ってくるか」と言われ、三菱鉛筆に入社した数原氏。 入社後は、群馬工場長や経営企画担当取締役などを歴任しました。 同じポジションには最長でも2年と、多様な部署を転々としました。 大手企業の野村総研から転身してきた数原氏の目に、多くの課題が映りそうなものですが、「当社のいいところを勉強させてもらう日々でした」と振り返ります。 そして2020年、コロナ禍のまっただ中に社長に就任しました。 街中で多くのオフィスが閉まり、文房具の需要は大きく下落しました。 「一番つらい状況だった」といいます。
◆コストカットせず、新事業へ
しかし、多くの企業がコストカットに乗り出す中、数原氏は社長として最初に新規事業のチームを結成しました。 入社以来、デジタル化の波を見てきた数原氏。 「書くこと」は少なくなっていくことは時代の成り行きだと感じていました。 「一本足では厳しい。もし売上がゼロになったら、どれだけ会社が存続できるのか」。 財務部門の分析によると、2年間は存続できると分かりました。 ならば、じたばたするのではなく、長期的な視野の新規事業に踏み出そう。 そうして生まれたのが「Lakit(ラキット)」というサービスです。
◆文房具を通じて表現に寄り添う「Lakit(ラキット)」とは
三菱鉛筆の存在価値は何か。議論を重ねる中で、筆記具というモノを売るだけでなく、筆記具を通じて「書く、描く」という“表現体験そのもの”を提供するという方向性が浮かびます。 そして、筆記具をはじめとするレッスンに必要な道具をキットとして、このキットとオンラインレッスンを組み合わせたサービス「Lakit(ラキット)」が生まれました。 「Lakit(ラキット)」について、数原氏は「お客さんの表現活動、夢の実現に寄り添うことになれば」としつつ、経営的な面からは「新しいことにチャレンジした社員が生み出してくれた点」と意義を語ります。 コロナ禍にありながら、社員が自由に力を発揮して生まれたサービスは、企業にとって代えがたい財産でした。 そして、2022年、三菱鉛筆は過去最高を更新する680億円超の売上げをたたき出しました。