仏像界の大ボス・東大寺の大仏はなぜデカいのか? 再建につぐ再建、腰回りは鎌倉、顔とボディは江戸時代もの
みほとけの推しほとけ #2
年間1000体以上、これまでに10,000体以上を拝み倒した、「お寺・仏像研究家」の芸人みほとけさん。独自の目線で、仏像の魅力を語った書籍『みほとけの推しほとけ』が発売された。 【イラスト】みほとけさん描き下ろし・東大寺の大仏
全国に散らばる国分寺、国分尼寺の総本山、東大寺にある大仏のエピソードを書籍より一部抜粋して紹介する。全宇宙を統括する毘盧遮那仏(びるしゃなぶつ)とは?
よく分からないけどデカくてありがたい!
東大寺の大仏は仏像界の大ボスです。大きさもさることながら、聖武天皇が「この国の全ての人のために祈りたいのじゃ!」とオーダーした国家レベルの大事業仏像というバックグラウンドも重要です。 聖武天皇は日本中に国分寺・国分尼寺という全国を統治するための官立寺院を建立しました。東大寺はそれらの「親玉」。「全部ひっくるめて祈ってやるぜ!」という気概が、あの巨大な体に込められています。 東大寺大仏造立当時の740年代は疫病が広がり、中央では権力闘争、九州では反乱が起き、社会不安が高まった時でした。聖武天皇は待望の男子の後継となる息子にも早くに先立たれ、「ワシの国、かなりヤバくない!?」と、危機感はハンパなかったと思います。 そんな時に河内(大阪)の智識寺というお寺で〝毘盧遮那仏(びるしゃなぶつ)〟という仏様に出会います。この仏様は、全宇宙を統括する超巨大な存在です。 その教えによって仏教への理解をさらに深めた聖武天皇は、743年「この乱世を癒し、国民の幸せと国家の安泰を願うには毘盧遮那仏をみんなで協力して造立する他ない!」と大仏造立を始めたのです。 全国を行脚する僧侶行基が全国民から資金を集め、752年、東大寺大仏はなんとか完成しました。大仏造立の事業には全国民の半数以上が関わったといいます。これ以降、戦で燃やされたり、地震で壊れたりを繰り返しながらも、時の統治者と国民の勧進(仏様のためにお金を出すこと)で何度も立ち直ってきました。
宇宙を統括
聖武天皇の願いは叶ったのでしょう。東大寺の大仏を通じてこの国の人の平和を祈る心は、今日までも伝播し続けているように思います。近年の新型コロナウイルスの流行による混乱の際も、東大寺は日本中の宗派・宗教を超え、僧侶や神父とともに祈りを捧げると宣言しました。 聖武天皇は「ほら!大仏を造ってよかったでしょ!」なんて言っているかもしれません。だからこの国に生きる、私たちみんなの「大ボス」なんですね。 さて、ではなぜあんなに大きいのでしょうか。先ほどしれっと書きましたが、この宇宙を統括する超巨大な存在だからです。超巨大にして、〝宇宙を統括する〟というスゴすぎて分かりにくい働きを「考えるな、感じろ!」と示してくれているわけです。 期待通り、私はあの大きくて圧倒的な存在を前にしては息を吞み、「よく分からないけど、デカくてありがたい!」となります。現代は巨大建造物も珍しくないけれど、やはりこの国を1300年もの間背負ってきた〝デカさ〟にはひれ伏したくなる、ウチらのボスです。 ボス(もう敬意を込めてこう呼ばせていただきます)のポーズには、メッセージが込められています。右手のひらを前に向けて立てる「施無畏印」、左手のひらを上に向けて膝に乗せる「与願印」。右手で「怖くないですよ」、左手で「願いを叶えましょう」という意味を示します。 私流に解釈すると「恐れることはない、私があなたの全てを受け止めよう!どこからでもかかってきなさい!」となります。ボス~!心強すぎます~! 先にも書いた通り、大仏は何度も壊れたり再建されたりを繰り返したので、奈良時代の造立当時のものはお腹回りと、台座の蓮の花弁くらいしか残っていません。腰回りは鎌倉時代、ボディやお顔は江戸時代のものです。ここまで読んでいただいた方なら「なんだ、江戸時代かよ」とはならないですよね。 再建されていることが尊いと思うんです。やはり大ボスだからこそ、時代の動乱には巻き込まれるし、造り直すのも莫大な費用がかかります。それでもなお立ち直ってきていることを思うと、ありがたく感じますよね。 ただ、聖武天皇が今の姿を見たら、「だいぶ若返りましたなぁ!」なんて言うかもしれません。 イラスト/書籍『みほとけの推しほとけ』より 写真/shutterstock ---------- みほとけ 仏像大好き芸人。慶應義塾大学卒業。ミス鎌倉などの活動を経て、本名の「みほ」と大好きな「ほとけ」を掛けたみほとけの名で活動を開始。ピン芸人としてクイズ番組や旅番組などのメディアへ出演する傍ら、自称「お寺・仏像研究家」として年間1000以上のお寺を訪れており、拝観した仏像は1万体を超える。尊敬するものに近づきたいという気持ちから自身を愛する仏に扮して表現する「仏像なりきり」をはじめ、寺院でのイベントやカルチャーセンターでの講演、美術館・博物館とのコラボ、自身がプロデュースする作務衣の発売など、仏像にまつわる活動を幅広く展開中。老若男女問わず、仏像の魅力を伝えている。 ----------