「過剰コンプラ」で消えゆくディズニーアニメの魔法 過去の栄光を取り戻せるか?
ディズニーアニメに最後に心を揺さぶられたのは、いつだったろう。 米アカデミー賞の「長編アニメーション賞」は創設以来、ディズニーがほぼ独り勝ちを続けている部門だ。そんな同賞を、今年は宮﨑駿監督の『君たちはどう生きるか』が受賞した。 このすばらしい作品の受賞は当然の結果だが、その背後にはディズニーアニメの凋落が見え隠れする。 ■消えゆく魔法、アカデミー賞連勝の栄華 2006年に米アニメーション制作会社ピクサー・アニメーション・スタジオを買収したディズニーは、2007年(『レミーのおいしいレストラン』)から2021年(『ミラベルと魔法だらけの家』)まで、連勝街道を突き進んだ。受賞を逃したのは2019年の『スパイダーマン:スパイダーバース』と2012年『ランゴ』の2作品のみである。 「長編アニメーション賞」部門は長らく、アカデミー賞選考メンバーに重要視されていなかったかもしれない(授賞式ホストのジミー・キンメルに揶揄されたことも)。しかしその傾向は徐々に変わりつつある。それは去年と今年の受賞作が、ギレルモ・デル・トロ監督の『ピノッキオ』と、宮﨑駿監督の『君たちはどう生きるか』だったことからもよくわかる。 この2つは、製作陣が自身の思い(そして、アニメという媒体)に真摯に向き合い、そこに主軸を置いた挑戦的な作品だ。どちらも軽やかながら重みのある展開で、観客に生と死について考える機会を与え、エンドロールを見終わった後も深い余韻を残す。 このような「クリエーター主軸の製作」は、もうディズニーにはできないのかもしれない。ディズニーの全盛期は遠い昔。近年の目立った傾向は、過去の名作を劣悪な実写版でリメイクすることだ。それはまるで、過去の栄光にすがっているようにも見える。
「過剰コンプラ」に陥るディズニー
■「過剰コンプラ」に陥るディズニー 私は子どもといっしょにほぼすべてのディズニーアニメを見たが、正直、最後に感動したのがいつだったか思い出せない。どれも似たり寄ったりで、印象が薄いせいだろう。 多くの作品に透けて見えるのが、安全第一、コンプラ重視の姿勢。その仕上がりは、スパイスを入れ忘れた料理のように、どこかもの足りない。お気付きだろうか、昨今のディズニーアニメには、わかりやすい悪者が登場しなくなったことを。テーマも安全第一「主人公のトラウマ解決」一択だ。 『ミラベルと魔法だらけの家』のような子どの心を捉えやすいストーリーでも、はやり安全第一。ネットの炎上を恐れ、かつての名作アニメのような、踏み込んだプロットを避けている。家族の中で1人だけ魔法が使えない主人公がありのままの自分を受け入れ、自分の役割を見つけるというストーリーは心温まるが、似たような話を他でも見た気がする。 近年のディズニーオリジナル作品では、『ウィッシュ』と『ストレンジ・ワールド/もう1つの世界』の2本が、興行的に大コケした。さらに寂しいのは、それに関するネットのざわつきもなかったことだ。 ディズニーはもはや『君たちはどう生きるか』のように美しく、難解で、魂を震わせる作品が作れないのかもしれない。 『君たちはどう生きるか』では、主人公が家族の死を受け入れ 、不思議な世界を通じて成長していく姿が骨太に描かれている。このファンタジーアニメは陳腐な人生訓で観客を愚弄しない。自己満足的な人生訓を振りまくのではなく、アニメならではの夢の世界から力強いメッセージを届ける。 ディズニーの子会社、ピクサーも独立した製作部門ではあるものの、深みのある魅力的な作品を生み出すことに苦戦しているようだ(例外は『ソウルフル・ワールド』 で、これは必見)。 私は今年のアカデミー賞ノミネート作品、ディズニーの『マイ・エレメント』も2 回見たが、正確なあらすじをそらで説明するのは難しい。火・水・土・風という4つのエレメント(元素)が住む世界で、決して交わってはならないという異なるエレメントに出会った少女が、ともに生きることを学ぶというストーリーだったと思う。これも悪くはなかったが、似たような作品では同ディズニーの『ズートピア 』の方がうまく作られている。