「あのネオンだけは、残したほうがいい」二度と光ることがないネオンを気遣ったリリー・フランキーと館主を救った高倉健さんの手紙〈北九州市・昭和館〉
休館か、閉館か。
健さんの言葉には、続きがあります。 「夢を見ているだけではどうにもならない現実問題。どうぞ、日々生かされている感謝を忘れずに、自分に噓のない充実した時間を過ごされて下さい。ご健闘を祈念しております」 感激しました。昭和館を守ろうと決意しました。 健さんの映画を、ずっと見てほしい。 費用が高くて購入をためらっていたDCPのデジタル上映機器を、2台購入しました。35ミリのアナログ映写機も、過去の名作を上映するために残しました。 2014年に亡くなられたとき、日本でたった1館、うちだけが健さんの主演映画をかけることができたのです。『新幹線大爆破』のアナログのフィルムが、昭和館に届いていたので……。 瓦礫の山を探しました。あの手紙に、わたしは救われたのです。 どこかにあるはずだ。ほんの切れ端でもいい。どこかにあってほしいと祈りながら。見つかりません。 ファンの方々に申し訳ない。健さんに申し訳ない。 35ミリの映写機が出てきました。巨大な鉄の残骸ですが、これがあったから、健さんの映画を上映できたのです。 瓦礫の近くに立っていると、小倉のまちの方々が声をかけてくださいます。涙ながらに、一緒に悲しんでくださいます。 休館か、閉館か。 心は揺れています。再建は無理だろうと思うのですが、閉館を決断することもできない。まちの人たちが昭和館を必要としてくれるのであれば、できることを考えたい。 それだけでした。 写真/shutterstock ---------- 樋口智巳(ひぐち ともみ) 1960年生まれ、福岡県北九州市小倉出身。小倉昭和館の三代目館主。2022年8月、83年もの歴史ある建物を焼失。まちの人たちと、多くの映画人たちに支えられ、2023年12月に再開する。 ----------