子どもの勉強場所はリビング? それとも自室? 「勉強場所」よりも親が気をつけるべきこと
40年前、私たちの親の時代には【子どもがいる世帯は7割】でした。ところが今は【子どもがいない世帯が6割】。社会は大きく変わっているはず? ……と思いきや、給料は上がらないのに物価は上がり、男女の賃金格差と雇用格差はあいかわらず。暗くならざるをえない状況だけど、どうしたら少しでも豊かな人生を送れるのか、家族や友人たちとどう楽しい時間を持てるのか、小島慶子さんと考えていく連載です。 賢い子に育てたいなら「ダイニングテーブル」で絶対にやってはいけないこと
小島慶子「令和の勉強場所? 子どもたちと海を渡った〈ダイニングテーブル〉」
私たち家族4人が一緒に一番長い時間を過ごした場所は、間違いなくダイニングテーブルです。2002年に買った長さ2メートルの大きなテーブルは、最初は夫婦2人の、次に長男と3人の、やがて次男も加わって4人での生活の中心になりました。生まれたばかりの息子たちの着替えも、初めての離乳食も、つかまり立ちも、お絵描きも、ひらがなの練習も、受験勉強も、テーブルにはたくさんの思い出が詰まっています。 はるかオーストラリアにまで運んで、息子たちがすっかり大きくなるまで一緒にいてくれました。私はパースの家ではいつもダイニングテーブルで原稿を書いていました。夫と息子たちがそれぞれの部屋でぐうぐう寝ている時も、未明までダイニングテーブルでパチパチと原稿を打って、リビングのソファで寝たものです。それが嬉しかったのです。いつも家族の気配の中にいる感じがして。 子どもはリビングやダイニングで勉強するほうがいいという説もありますね。私の姉は今から40年以上前に、塾に通わずダイニングテーブルで勉強して大学に合格しました。私は自室で勉強する派でしたが、実家の丸いダイニングテーブルの記憶は鮮明にあるので、やっぱり生活の中心だったんだと思います。 息子たちは、小学生まではほぼダイニングテーブルで勉強していました。パースに引っ越してからも、毎朝テーブルで英語の算数ドリルとスペリングゲームをやってから学校に行くのが習慣に。でも2人ともハイスクール(中高)に上がってからは自室で勉強することが多くなりました。 長男は時々気分転換にダイニングで大学の課題をすることもありますが、次男は大学受験の猛勉強の時には数ヵ月間、家にいる時はほぼ部屋から出てきませんでした。私と夫は、どこで勉強するかは子どもたちに任せています。 一番大事にしていたのは、子どもが大人に対して「今は一人になりたい」「自分の空間を大事にしたい」と遠慮なく言えるようにすることです。 「ねえ、ソファで一緒にダラダラしようよ」 「ママごめん、僕は今ちょっと一人で過ごしたいからあとでね」 「おっけ、じゃまたあとでね」 「ねえ、隣に座ってもいい?」 「いいけど暑いしもうちょっと離れてよママ。僕のパーソナルスペース!」 「すまんすまん」 てな具合です。普段は日本とオーストラリアで離れているので、パースの自宅にいる時は少しでも長く息子たちのそばにいたい私。でも彼らはいつもママにべったりしていたいわけではありません。 子どもでもその時々で快適な人との距離があります。親がそれを侵害しないようにと心がけました。特に小学校高学年以降は思春期に入り、自分一人の時間や空間が大事になってきます。 幼い時から「大人にNOと言っていい」「自分の空間や時間は尊重されるべきものだ」と思って育つのはとても大事なことです。反抗的でわがままになってしまうのではないかと心配する人もいるかもしれませんね。でも、自分の意思やプライバシーが尊重される環境で育った子どもは、他人の意思やプライバシーも大切にすることができるようになります。 NOが言えない環境で育つと、相手のNOに過敏に反応したり、人の顔色を窺うようになってしまいます。同意なく相手の体を見たり触れたりしてはならないことを理解するためにも、NOと言える力はとても大切です。 相手に不快な思いをさせないように配慮しつつ、しっかりと自分の意思を伝えることが必要な場合もあるし、短い時間で断固としてNOを示す必要がある場合もあります。いろいろな伝え方を親子の日常生活の中で学べたらいいですね。言い方を改善するべき時でも、NOの意思表示をすること自体は間違っていないと伝えることが大事だと思います。 ともすると「そういう言い方だと聞く気にならないよ。こっちが聞く気になる言い方をしなよ」と言ってしまいますが、それを立場の強い人が言うのは、立場の弱い人の口を塞ぐ行為に当たります。「NOと言っていいんだよ」ということをまずは伝えて子どもの意思を受け入れ、その上で他の言い方もあるかもしれないねと一緒に考えてみるのがいいかもしれません。 私は息子たちに「ごめん、僕は今一人になりたいんだ」と言われたら、いつも「もちろんいいよ。一人の時間は大事だよね」と心から言っていました。寂しいなあと思うこともあるけど、ハッキリとNOと言える息子たちを頼もしく思ったし、私を信用してくれているのだなと嬉しくもありました。 実は私は、上手に拒絶ができない子どもでした。NOを言っても怖いことや嫌なことが起きないという安心感を持つことができなかったのです。NOを言うと大人が不機嫌になって「子どもらしくない」と言ったりする。また、嫌だと言ってもくすぐるのをやめてもらえなかったり、笑いながら無理にお茶を口移しされることもありました。 大人はふざけているつもりだったのでしょうが、結果として私は「NOを尊重する」「相手の身体やパーソナルスペースに敬意を払って丁寧に扱う」という大事なことがうまく学習できませんでした。だから友達が嫌がっていてもふざけてちょっかいを出し続けてトラブルになることが多かったのです。 一方で、ちょっとしたことでもNOと言われると過敏に反応して不安になり、相手に鬱陶しがられてしまうこともありました。 だから自分が親になった時には、子どもたちが安心してNOと言えるような環境を作りたいと思ったのです。幼い子どもでも、自分には選択する自由と拒絶する自由があると知ってほしい。 勉強場所はダイニングやリビングでもいいし、一方で安心して一人になれる場所も作ってあげたらいいのではないかと思います。子ども用のテーブルやコンパクトなライティングデスクなど、小さくてもいいから自分だけのスペースもあるといいですね。もしかしたら全然使わないかもしれないけど、そういう場所が君にはあるんだよ、どこで過ごすかは君が決めていいんだよと示すことが大事なんじゃないかと思います。 本格的な勉強机は、思春期になって本人が必要とするようになってから買ってあげるのでもいいでしょう。子どもの机を勝手に触らないのはもちろんのことです。 時間も空間も心も、子どもの領域を侵犯しないこと。それさえ押さえておけば、親子で話し合いながら快適な生活空間を作ることができるんじゃないでしょうか。 【PROFILE】小島慶子 こじまけいこ・1972年オーストラリア生まれ。学習院大学法学部政治学科卒業後、TBSに入社。アナウンサーとしてテレビ・ラジオ等で活躍。1999年にギャラクシー賞DJパーソナリティ部門賞を受賞。2010年にTBSを退社し独立。現在はエッセイスト、タレントとして活躍中。 2014~23年は夫と息子たちがオーストラリア・パースに教育移住。自身は日本で働きながら日豪往復生活を10年間続けた。息子たちの海外大学進学に伴い、2024年からは日本定住。著書に『絵になる子育てなんかない』(幻冬舎/養老孟司との共著)、『大黒柱マザー』(双葉社)、『おっさん社会が生きづらい』(PHP新書)ほか。東京大学大学院情報学環客員研究員。 Twitter:@account_kkojima Instagram:keiko_kojima_
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