『海に眠るダイヤモンド』“永遠の約束”はなぜ叶わなかったのか 第1話の謎が明らかに
一方、着炭の知らせを受ける前に嬉しい報告をしてくれたのは百合子だった。賢将(清水尋也)との間に新たな生命を宿したという。だが、彼女の顔からは不安が拭えない様子だった。被曝経験のある女性が妊娠をしたとき、どのような影響を受けるのか。当時はまだわからないことが多かったからだ。そもそも朝子にあの日、長崎で何があったのかを話していない百合子は、その心の中に刺さっているものも見せない決意をしていた。もちろん事情をすべて知っている賢将も、そして鉄平も。なんでも筒抜けになる端島。みんなが知り合いだからこそ、外には漏らしたくない秘密を守ってくれる鉄壁になることもある。 その最たる例が、リナと進平の秘密だった。進平はリナの追っ手を躊躇なく拳銃で撃ち殺した。その死体は今も打ち上がることなく、誰にも見つかっていない。そして、偽名で生きるリナとの婚姻届も未提出のまま。そして誠の出生届も出さずに、まずは端島という場所でひっそりと隠れて暮らそうとしていた。だが、その進平が死んでしまった今、リナを守る盾となってくれる人はいなくなった。いつ端島がなくなるともわからなくなれば、さらにその防御壁はもろくも崩れ始める。誠の健康保険加入をかたくなに拒否するリナに、事情を聞いた鉄平。それは、進平の代わりにこの秘密からリナと誠を守ることになることと等しかった。
「着炭!」その知らせに島中が湧いたという。半年間の鬱憤を晴らすような夜、鉄平はリナと消えたのだといづみは振り返る。その理由は、鉄平の日記にも書かれていない。それどころか、そのころのページは黒く塗りつぶされたり、切り取られたりしている。鉄平に何があったのか。ここまで鉄平の日記を読み続けてきた玲央にとって、その行動はあまりにも不自然過ぎた。「鉄平ならどうするかな」「鉄平になれるんじゃない?」なんて、玲央のなかで鉄平はもはやちょっとしたヒーローとなった。 そんなみんなの味方である鉄平が、愛する朝子を裏切って物語が終わるわけがない。納得のいかない玲央はその答えを探そうと、片っ端から端島の情報を拾い集めていく。そこで見つかったのはネットオークションに出品されていた端島の8mmフィルム。いづみの孫・星也(豆原一成)、千景(片岡凜)とともに、そのフィルムを手に入れようしたとき、ある人物と繋がることに。なんと、あのとき百合子が身ごもっていたであろう息子の孝明(滝藤賢一)だった。 時間は地続きになっている。そして歴史は誰かが動いた結果でできているのだと実感する。あのとき、この人があの決断をしなければ、この人があの一歩を踏み出していなければ……私たちの世界は、そんな小さな選択の連続で大きく変わるのだ。鉄平の日記から、それを痛烈に感じた玲央。クズい、ゲスい日々に終わらせたい。どこかでそう願っていたことに、鉄平の人生を追体験することで気付かされる。 そして、そんな玲央の言葉に感化されるように、いづみの息子・和馬(尾美としのり)も、姉・鹿乃子(美保純)の言われるがままに、いづみから会社を奪い取る計画の要となる嘘の診断書を目の前で破り捨てて見せる。最初こそ、やっちゃった感のある声を出していたが、そのうち「あぁ……あ~、さっぱりした!」と清々しい笑顔を見せる和馬。 思わぬ和馬の行動に、今度は玲央がいてもたってもいられず、走り出す。そしてホストクラブが女性客を風俗店に斡旋している証拠を警察に突き出し、「俺も店に協力しました。逮捕してください」とまさかの自首をしてみせるのだ。その顔は憑き物が落ちたように晴れやかな表情をしていた。まるで、眠りから覚めた端島のように。 誰かの口車に乗せられ、誰かを騙して自分を騙して「いつ死ねるんだろう」とさえ思いながら日々を過ごしてきた玲央。初めて、自分の意思で、自分の人生を生きた瞬間だったのではないだろうか。だが、リナと消えたという鉄平の人生はどうだったのか。鉄平のダイヤモンドはどうなったのだろうか。次回はいよいよ最終回。この物語のラストを見届けたとき、私たち1人ひとりのなかに眠るダイヤモンドに「着炭」する瞬間が待っている予感がする。
佐藤結衣