兵頭功海、『下剋上球児』で得た役者としての新たな一歩 「お芝居しちゃダメなんだ」
次代のスター候補生たちが揃うTBS日曜劇場『下剋上球児』。役者としての演技はもちろん、甲子園を目指す越山高校野球部として説得力をもったプレーを見せなくてはいけない球児たち。本気のオーディションを経て選ばれた彼らはどんな思いで撮影に臨んでいるのか。放送に合わせて球児たちへ連続インタビュー。第4回は、チーム一の長身・根室知廣を演じる兵頭功海。 【写真】実年齢は兵頭より年下 姉役の山下美月
演じる根室とは似ているところも多い?
――ドラマが放送されて、反響はいかがですか? 兵頭功海(以下、兵頭):僕は福岡出身なんですが、第2話放送後にはスマホに地元の友達からの通知がバーッと溜まっていて、「南雲先生、免許ないのヤバない?」って(笑)。もちろん親も観ていますし、他の作品でお世話になったスタッフさんからもたくさん連絡があります。 ――これまで根室を演じてきての感想は? 兵頭:高校まで野球をやっていたので、久々に学生時代に戻ったような感覚です。毎日、朝から晩までグラウンドにいて、泥だらけになって野球をして……。そういう日々がすごく楽しいですし、リアルにキツくて「行きたくないな」と思うときもあったりするのが、また本当の部活のようで(笑)。毎日、充実した日々を過ごしているなと思います。 ――オーディションから切磋琢磨してきた球児役メンバーですが、特に仲がいいのは? 兵頭:椿谷役の伊藤あさひは、この業界で一番仲のいい友達です。彼が出演していた『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』と、僕が出ていた『騎士竜戦隊リュウソウジャー』のコラボ映画を撮影したときに、同じシーンはほとんどなかったのに「俺、この人と仲良くなれるな、仲良くなりたいな」と思っちゃって(笑)。当時、もうひとりの共演者と一緒に3人でご飯を食べて、そこからすぐに僕の家に泊まりにくるようになって、今では何でも話します。「いつか共演したいね」と話していたときに、この『下剋上球児』のオーディションがあって、一緒に野球を練習したり、「次も頑張ろう」と毎回話をしていたので、2人で合格できたことにすごく思い入れがあります。 ――伊藤さん演じる椿谷も含め、根室と同期(犬塚翔役/中沢元紀、椿谷真倫役/伊藤あさひ、日沖壮磨役/小林虎之介、久我原篤史役/橘優輝、楡伸次郎役/生田俊平)の関係をどう捉えていますか? 兵頭:根室は、野球部に入ったばかりの頃は周りと打ち解けられないというか、少し楡を怖がっていたり、優しそうな椿屋や、同じクラスの翔にしか話しかけられなかったけど、2年、3年と学年が上がるうちに、楡にもツッコめるようになったり、久我原や壮磨にも注意できるようになったり。わりとアドリブが多いので、その中で根室の成長や、みんなとの関係値が変わってきたことを感じています。 ――アドリブについて、塚原あゆ子監督から言われて印象に残っていることはありますか? 兵頭:アドリブと直接繋がるかはわかりませんが、特に最初の頃は「役をキャラっぽくしないで。記号化しないで」と言われていました。お芝居のテストが終わったときに、僕らに「やりすぎないで。もっと自分に落とし込んでいい」と。それがアドリブというか、セリフがないナチュラルな会話に繋がっているのかなと思います。役を演じようとすると言葉がセリフっぽくなってしまうけど、自分に近ければ近いほど自分の言葉として出るので、塚原さんの演出にはそういう狙いもあったのかなと思っています。 ――兵頭さんは強豪校出身だそうですが、野球経験やポジションを教えてください。 兵頭:小学校4年生から高校3年生までやっていました。小学校の頃には外野をやったりキャッチャーをやったりしていましたけど、本格的にやるようになってからはずっとピッチャーでした。 ――根室はサイドスローですが、ご自身も? 兵頭:いや、僕はオーバースローで、オーディションでもオーバースローで投げていました。ただ、高校1年生のときに一瞬サイドスローに変えて下半身の使い方を覚える練習をしたことがあって、投げ方自体は漠然と自分の中にあったので、そこから「根室っぽいってなんだろうな」と考えていきました。プロ野球選手の投げ方を真似してみよう、というのも“野球部あるある”で、僕も昔からいろいろと真似をしていたので、「こんなイメージかな?」と再現しながらやっていました。 ――根室は最初からサイドスローと決まっていたんですか? 兵頭:そうですね。球児役12人の合格発表があった日に、「サイドスローです」と新井(順子)プロデューサーから言われて、「サイドスローなんだ!」と思いました。 ――ちなみに、ご自身と根室の共通点は? 兵頭:ずっと支えてもらっているマネージャーさんからは「(根室役に)ぴったりだね」と言われています。つらい環境でも、自分では「つらくない」と思って笑顔でいる感じがそっくりかもしれない、と。僕自身そういうつもりはあまりないんですけど(笑)、マネージャーさんに言われたので、もしかしたらそういうところが似ているのかもしれないです。 ●いつかまた日曜劇場のもっと真ん中に ――主演の鈴木亮平さんとは、現場でどのような会話をされていますか? 兵頭:僕が言うのはおこがましいですが、奥寺(佐渡子)さんの脚本はすごく難しくて、僕らが考える隙間が多いんです。塚原さんもおっしゃっていましたけど、「このシーンとこのシーンの間に何があったんだろう」というのが、どうとでも埋められるし、その考え方でそのシーンの意味がすごく変わるんですよ。お互いの認識が一致しないと統一性のないシーンになってしまうので、亮平さんは僕と同じ目線に立って「根室はここに来るまでに、どういうことをしていたと思う?」「根室がそうしていたなら、先生はたぶんこう心配して、今ここにいると思う」と一緒に隙間を埋めてくれて、一つ一つのシーンを丁寧に撮れているなと思います。フェリー乗り場で「野球続けたいのかなと思って見てたよ」と南雲先生が根室に伝えるシーン(第1話)でも、亮平さん自身がいろいろと考えて、ワンカット撮り終わったあとには監督と何十分も話してそのシーンを作ろうとしてくださっていて。主演とはいえ人間なので、「もういいや」となることがあってもおかしくないと思うけど、亮平さんにも塚原さんにも、絶対に妥協がないんです。プロ意識の高い2人を見て、「すごいな、こうならないといけないな」と思っています。 ――黒木華さんの印象も聞かせてください。 兵頭:黒木さんは、みんなの寮母さんみたいです(笑)。母ともまた違って、寮母さん。ふだんは後ろにいるけど、「はい、しっかりやれよ!」とパッと締めてくれる感じがします。すごく優しい眼差しで僕らを見ていて、目が合ったらニコッとしてくれるんですよ。相談にも乗ってくれますし、「最近こういうことにハマってるんですよねー」みたいな僕らの男子高生のような会話も、「なに喋ってんの」と笑いながら聞いてくださいます。 ――姉役の山下美月さんの印象は? 兵頭:山下さんは、人格者だなと思いました。本当に人として素晴らしくて、リスペクトはあるけど壁は一切なくて、すごく話しやすい空気を作ってくれます。正直、撮影日数はそんなに多くなくて、たくさん話しているわけではないんですけど、会うたびに本当の姉ちゃんのように感じます。実年齢は、僕のほうが一個上なんですよね。だから、「山下さんの弟に見えるかな」と不安もありましたけど、最初に山下さんが洗濯物を干している後ろ姿を見て、「姉ちゃんだわ」って。お芝居もそうですし、持っている雰囲気も含めてそう思えたことに、すごく感謝しています。 ――今作を通じて、役者としての新たな気づきはありますか? 兵頭:たくさんありますが、一番は「お芝居しちゃダメなんだな」と。根室は「貧乏で、親がいなくて、野球ができるかもわからなくて……」という説明を見ると、塚原さんからは「記号化しないで」と言われていても、どうしても「かわいそうな子なのかな」とか意識しちゃうんです。でも、根室だってたくさん笑うし、明るいときは明るくて、僕らと一緒なんですよね。そういう生っぽさを出すためには「お芝居しちゃダメなんだ」と、塚原さんの演出や亮平さんを見ていてすごく感じます。それに、僕は役者を始めて5年目ですが、今回初めてレギュラーでドラマに出ている球児メンバーの顔を見て、「すごく自然だな」と思う瞬間もたくさんあって。「僕も僕としてそこに立って、心から笑って、心からそう思って演じたいな」と強く思いました。 ――この経験を経て、役者として飛躍したいという思いもありますか? 兵頭:僕は今年、初めて地上波ゴールデン帯の連続ドラマに出させてもらいました。今回は日曜劇場という大きなステージでお芝居をさせていただいたので、視聴者の方がどう感じるのかも気になりますし、業界の方からは「いつか一緒に仕事したいな」と思ってもらえたらいいな、と思います。まずはこの『下剋上球児』で根室を一生懸命演じて、いろんなところでお仕事をして、いつかまた日曜劇場にもっと真ん中(に立つ役)で帰って来られるような役者さんになりたいです。 ――第6話の見どころを教えてください。 兵頭:第6話では、富嶋(福松凜)たちの代の夏の大会が始まります。去年、日沖お兄ちゃん(菅生新樹)たちの代で負けてから、越山高校野球部が1年間でどれくらい成長したのか。それが野球シーンを通して伝わる回になっていると思うので、特に富嶋、野原(奥野壮)、紅岡(紘瀬聡一)の3人に注目してもらいたいです。その先輩3人の背中に、根室としても、僕としてもグッとくるシーンがたくさんあったので、見どころかなと思います。 ――今後の根室の注目ポイントもお願いします。 兵頭:あんなに気弱で、あんなに球も遅くて、野球部に入るかも悩んでいたような子が、どんどんチームを支える存在になって、翔をライバル視できるまでに成長していくので、その過程を見守ってもらえたら嬉しいです。僕としては「この子がここまで成長して、こういうプレーをするようになったんだ!」と思ってもらいたいので、ぜひ注目してほしいなと思います。 (文=nakamura omame)