サハラ砂漠で「ワグネルの残党」が暗躍している理由…「民間軍事会社」から見えてくる「戦争の本質」
ニジェールから米兵1000名が撤退
アフリカ大陸北部に広がる世界最大の砂漠「サハラ砂漠」の南端にニジェールという国がある。国土のほとんどが砂漠や半砂漠地帯で覆われ、世界で最も開発が遅れ経済的にも困窮している国だ。 【画像】韓国・文在寅の「引退後の姿」がヤバすぎる…! 2024年4月19日、バイデン米政権は、この西アフリカの最貧国に静かに駐留させてきた1000名の米兵を撤退させると発表した。 米軍はニジェールに「空軍基地101」と「201」と呼ばれる2つの基地を持ち、2013年以来、主に無人機を使った対テロ作戦を実施してきた。サハラ砂漠南部のサヘル地域全体で国際テロ組織アルカイダや過激派イスラム国といったイスラム過激派勢力が勢いを増す中、彼らの活動を監視し、必要に応じてミサイルなどを撃って攻撃する拠点として、ニジェールは米軍にとって絶好の場所だった。 しかし昨年7月にクーデターで欧米寄りの政権を転覆させて権力を掌握した軍事政権は、同年末までに旧宗主国だったフランスの駐留軍を撤収させ、今年の3月には米国との軍事協定も破棄すると発表。米軍に撤収を迫っていた。 バイデン米政権は、それでも米軍駐留継続のためにニジェール軍政との交渉を続けたが、4月19日に遂に米軍の撤退を表明した。その一週間前にロシアの軍関係者がニジェールに到着したことを受けて、米政府は「これ以上交渉しても無駄だ」とあきらめたようだ。 アフリカでは近年ロシアの影響力が拡大しており、ニジェール、マリとブルキナファソの3カ国が今年1月に、欧米諸国が支援する「西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)」からの脱退を表明して世界を驚かせた。 この3カ国には、ロシアとの関係を強化するうえで民間軍事会社ワグネルが重要な役割を果たしたという共通点が存在する。
ワグネルの傭兵たちが守ってくれる
経済発展が進まず、イスラム過激派の台頭で治安が悪化するサヘル地域の国々では、植民地時代の旧宗主国フランスや欧米諸国への不満が増大し、軍事クーデターや権威主義政権の誕生など政情不安が広がっている。当然、軍政や権威主義政権は、「民主主義」を標榜する欧米諸国とは折り合いが悪くなるが、この間隙を突くようにワグネルがこれらの国々に浸透した。 「フランス軍がいなくてもワグネルの“傭兵”たちが守ってくれる・・・」、この安心感が、西アフリカの国々を欧米諸国との決別へと導き、ロシアとの関係強化へと向かわせた。ワグネルは、いわばアフリカにおけるロシアの影響力拡大の“切り札”として機能してきたのだ。 4月12日にニジェールの首都ニアメに到着したことが報じられた「ロシア軍関係者」とは、ロシア国防省傘下の準軍事部隊「アフリカ部隊」の“傭兵”約100名だと伝えられた。「アフリカ部隊」とは、昨年6月にロシアで反乱を起こしたエフゲニー・プリゴジン率いるワグネルが事実上解体される中で、同社のアフリカ利権を継承した組織の一つである。メンバーの多くはワグネルの元社員であり、ワグネルのブランドを変えただけの存在だとも指摘されている。 「アフリカ部隊」はすでにマリやブルキナファソにも進出し、「ワグネル亡き後」のこれらの国々におけるロシアの影響力確保に貢献している。プーチン政権は、「プリゴジンの乱」の反省から、「アフリカ部隊」にはワグネルのような自由な活動を許さず、国防省の傘下部隊として国家の管理・統制下で使おうとしているようである。 しかし、ウクライナ戦争で手一杯のロシア正規軍を補うために、非正規部隊として元軍人たちを使うというモデルは変わっていない。 民間軍事会社の役割の一つは、「政府の代理人」もしくは「軍の別動隊」としての機能を提供することであり、様々な政治的な制約から軍を使えない、もしくは使わない方が都合がいい時に、軍の役割を肩代わりすることである。そもそも戦争とは「政治の延長」であり、政治家が一定の政治目的を達成するために行うものだ。つまり軍隊とは、あくまで政治的な目的を実現するためのツールなのだが、国家の正規の軍隊を動かすことは政治手続き上、簡単な事ではない。