最古の洋風工場跡でたどる近代化の足跡 島津家ゆかりの博物館「尚古集成館」がリニューアル
800年にわたる島津家の歴史と、日本産業の近代化の礎を築いた足跡をたどることができる博物館「尚古(しょうこ)集成館」(鹿児島市吉野町)が改修され、10月にリニューアルオープンした。同館(本館)は1865(慶応元)年に建設された現存する最古の洋風工場跡で、国の重要文化財。この旧機械工場を含む旧集成館は、世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産」の構成資産の一つでもある。隣接する名勝「仙巌園」と合わせ、島津家ゆかりの鹿児島を知る“窓口”としてお勧めだ。 【写真】尚古集成館の内部や展示物 海に囲まれた薩摩は、海外の情報がいち早く届く地の利があった。そうした中で、幕末の薩摩藩は蒸気船や鉄製大砲といった巨大な軍事力を持つ欧米列強の侵出に脅威を感じ始めた。1851年に薩摩藩主に就いた島津斉彬は対抗するため、大砲鋳造や造船、ガラス製造など、さまざまな産業を興す工場群「集成館」の建設を推進した。 旧機械工場は、壁面を地元の溶結凝灰岩(ようけつぎょうかいがん)でくみ上げており、「ストーンホーム」とも呼ばれる。当時、工場内では動力として蒸気機関を活用し、洋式機械による金属加工、艦船・蒸気機関の整備などが行われたという。 同館の学芸員福元啓介さん(34)が「建物自体が文化財」と語る建物は、島津家別邸として知られる「仙巌園」の一角に位置。1915年に工場としての役割を終えると、島津家に伝わる資料を展示する施設として改修され、23年に「尚古集成館」として開館して現在に至る。 旧集成館は2015年、日本の近代化の黎明(れいめい)期を象徴する資産として評価され、世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産」の構成資産にその名を連ねることになった。 ◇ ◇ 今回の尚古集成館の改修は、耐震化工事に伴い実施された。「改修前は展示品保護のため外光を遮断して館内は薄暗かったが、館内から陳列棚などを撤去してみると、窓枠から差し込む光が印象的だった」と福元さん。文化庁とも相談しながらガラス面に紫外線を防ぐ加工を施し、明るく開放的に見せる方向でリニューアルを進めたという。 来館者から要望が強かった、島津4兄弟の活躍や関ケ原の戦いの内実、その後の江戸幕府との関係といった、戦国期における島津家の生きざま、ストーリーの解説もパネル展示などで充実させた。織田信長や徳川家康からの書状も、収蔵する東京大史料編纂所の協力を得て、精巧な複製品を紹介している。 約150点の収蔵資料には、集成館関連で当時のオランダ製の形削盤(かたけずりばん)(国重要文化財)なども。重厚かつシンプルに見える工作機械からは、当時のものづくりの息吹が伝わってくる。福元さんは「戦火にさらされたり、工場閉鎖時に一時移転が計画されたりと、旧機械工場は何度も失われる『危機』に直面した。今に残っていることが奇跡。幕末の工場跡という空間で、薩摩の歴史に思いをはせてほしい」と話す。 (竹森太一)
尚古集成館
鹿児島市吉野町9698の1。営業時間は午前9時~午後5時(原則・年中無休)。入場料(仙巌園・御殿・集成館共通券)は一般1600円、小中・高校生800円。JR鹿児島中央駅から車で約20分。099(247)1511。