大相撲元横綱・曙太郎 若貴ブーム時代、ライバルとして注目 夫人の献身的な愛に包まれ最期の言葉は「アイラブユー」
【ドクター和のニッポン臨終図巻】 昨年末に元関脇・寺尾さんの早すぎる死(享年60)をこの連載で解説しました。力士は無理に太ることで内臓に負担がかかるケースが多く、平均寿命まで生きられないことも多い。そして今回も、元横綱の早すぎる訃報です。 【写真】生花で彩られた祭壇に、浴衣姿の曙さんが優しくほほ笑む現役時代の遺影 少年のままの無邪気な笑顔と、優しさを湛えた瞳。土俵に上がればその瞳には闘志の炎が燃えて、強かった。史上最長身で史上初の外国人横綱。若貴ブーム時代、そのライバルとしても注目を集めた曙太郎(旧名チャド・ローウェン)さんが、今月上旬に都内の病院で亡くなられました。享年54。死因は、心不全との発表です。 横綱時代、何度も怪我に見舞われ2001年に惜しまれつつ引退。その後、東関部屋で後進の指導にあたっていましたが2003年に相撲協会を退職。プロの格闘家に転身し再び活躍していました。 しかし2017年4月、福岡県での試合直後に体調不良を訴えて緊急入院。このとき曙さんは意識不明の重体に陥り、心肺停止が37分間も続いたということです。 心肺停止とは、心臓の機能が止まった状態のこと。心停止と呼ぶことも。通常、そのタイムリミットは「3分」だと言われています。 心肺停止すると、脳をはじめとしたあらゆる内臓に血液を運ぶことができなくなり1分足らずで意識を失います。それを防ぐために、早急な心臓マッサージやAEDが必要となってくるのです。病院以外の場所で心肺停止となった場合は、1分ごとに救命率が7~10%ほど低下するというデータもあります。だから、曙さんが37分の心停止状態から生き返ったとすれば、それは奇跡的なこと。担当した医療チームも素晴らしい。 余談ですが、僕が昔、尼崎市医師会の休日夜間診療所に出務した時に「胸が苦しい」と飛び込んできて目の前で心肺停止に陥った患者がいました。気管内挿管と心臓マッサージを施しながら必死で救急搬送。結局、約80分後に心拍再開して1週間後に退院し、無事社会復帰を果たした人がいました。急性心筋梗塞でした。だから元気にしている人が急に心肺停止となっても決して諦めてはダメなのです。 奇跡的に生き返った曙さん。その後リングに復帰することはありませんでしたが、ようやく訪れた家族との時間を穏やかに過ごされたものとお察しします。クリスティーン麗子夫人の献身的な愛情に包まれていたことでしょう。最期の言葉は「アイラブユー」だった、と麗子夫人が明かしています。