クモ追い続け50年 徳島の研究家、県内で460種確認 新種も3種
◇徳島・阿波のクモ研究家・坂東治男さん(76) 徳島県内を約50年にわたり調査し、2024年10月までに県内で見つかっているクモ467種のうち約460種(98・5%)の確認に関わった。 教員採用された初年度、赴任した同県山川町(現吉野川市)の小学校で、3年生児童が夏休みの宿題として提出したガの標本のできばえに目が止まった。制作を指導した先輩教員を訪ね、教えを請うと、「クモを一緒に調べんか」と誘われた。 大学で生物学を学んだこともあり、県内で総合学術調査に取り組む団体「阿波学会」にも参加し、クモ調査を始めた。調査が進んでいなかった洞窟から新種のクモ発見が続いたこともあり、仲間の研究家と県内各地に出向き、泊まり込みでクモの採取を続けた。担任を務める児童とクモ収集に出かけたことも。帰宅後、顕微鏡で特徴を調べて図鑑と照合し、名前を調べたり、標本用のガラス瓶に整理したりした。 調査場所は洞窟や廃坑などに加え、岩の割れ目や暗い用水路など。温度や湿度が安定した洞窟といった空間では、親や幼生、卵も確認でき、その生活史(ライフサイクル)を観測できるとか。 体長が1ミリ程度といった種類の場合、自宅に持ち帰ってから顕微鏡をのぞき、退化などで目がないことが分かり新種の可能性が浮上したことも。研究者が標本を調べて、新種と判明したクモも3種あり、2種類には発見者の坂東さんに敬意を込めて「バンドウマシラグモ」「バンドウフクログモ」と命名された。 その形などからクモを嫌う人もいるが、ハエを捕食する益虫、ハエトリグモについては「目が透き通っていてきれいなんです。『クモがきれい』なんて言うと笑う人もいますが……」と苦笑する。 1985年ごろ以降に収集した標本類は、2023年から県立博物館に寄贈しつつある。博物館では分析を進めており、「坂東コレクション」としてデータベース化し、公開も検討している。 調査を始めた50年前には、国内に1000種ほどのクモがいるとされ、「県内には半分の500種ぐらいはいるのでは」との思いだった。「新しいクモを見つけた」と夢で叫んだこともあるほど。県内未確認のクモ探しの取り組みは、その目標が見えるところに来た。 「新種との出会い・発見が重なり、ここまで続けられた。でも、私の調査はピンポイント。すぐ近くに新しい種がいるかもしれない」。県内には未調査地域も多く、まだ収集調査は続く。【植松晃一】 ◇坂東治男(ばんどう・はるお)さん 徳島県市場町(現阿波市)生まれ。小学校教員や市教育次長、四国大准教授などを歴任。調査に同行して、応援してくれる妻と二人暮らし。県立博物館で2025年3月30日まで、「坂東コレクション:坂東治男氏が集めたクモたち」を開催中。