西島秀俊、指揮者役に奮闘「手探りの中で本番に向かっている」 役同士の共鳴と音を出す感動が特別な力に<さよならマエストロ>
西島秀俊主演の日曜劇場「さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~」(毎週日曜夜9:00-9:54、TBS系※初回25分拡大)が1月14日(日)よりスタートする。同作は、“ある事件”で家族も音楽も失った父と、そんな父を拒絶し音楽を嫌う娘が、地方オーケストラを通して失った情熱を取り戻し、親子の絆と人生を再生させていく完全オリジナルのヒューマンドラマ。 【写真】芦田愛菜“響”と向き合い気まずくなる西島秀俊“俊平” WEBザテレビジョンでは、主人公の元天才指揮者・夏目俊平を演じる西島にインタビューを実施。役柄や指揮の難しさ、娘・響役の芦田愛菜の印象などについて話を聞いた。 ■「遠い物語ではなくどこか自分たちの物語のように感じられる」 ――出演オファーが来た際の率直なお気持ちをお聞かせください。 プロットと企画をいただいて、そこに書いてあるせりふだけでも感動してしまって、この作品に関われるのであればぜひお願いしたいと思いました。人が生きていく中で困難なことは必ずあって、それぞれ大きな挫折を経験している人たちが、音楽を通してもう一度再生していくという物語が、遠い物語ではなくどこか自分たちの物語のように感じられる企画だと感じました。 ――マエストロ(指揮者)役についてはどのように思われましたか? 指揮者を演じるのは僕にとっては本当にハードルが高くて、できるのかと不安にも思いましたし、いまだに苦労しています。撮影中も、自分の中ではいつまでたってもできたという実感はなく、ひたすら1曲1曲に向かっていく感じですね。 ――具体的にはどういった部分に難しさを感じますか? 教えていただく先生が何人もいらっしゃるのですが、皆さん形が全く違うので正解がないという…。もちろん最初は模倣から入りますが、最終的には自分の道を探していくしかないということなのかなと思っています。 音楽監修の広上淳一先生が、僕の役にとても大きなヒントと影響を与えてくださっています。ご本人の持っているエネルギーや音楽に対する愛情がものすごく大きな方なので、その魂の部分を常に教えられているし、そのことを表現してくださいと今も言われ続けています。 他の先生にも、「模倣するのが世界一難しい人です」と言われているので、最初は広上先生のスタイルを完全にまねするところから始まって、広上先生自身も無意識でやられているところを分析していただいて、解説していただいて、それを消化して…ということを積み重ねています。 なので、プロセスがすごく不思議で、形をまねしていってその精度を上げてくのではなく、広上先生に教わった根っこの部分ある、この曲はこういう曲で、こういう風景があって、こういう感情があって…というところを掘り下げていき、手探りの中で本番に向かっている状態です。 広上先生には指揮を習っていますが、それ以上の表現するということ、そして誰かと共鳴するということはどういうことか、ということを教わっているような気がしています。 ■“武器”を前に感じるプレッシャー ――実際に本番で指揮を執ってみた感想をお聞かせください。 人前に立つことは慣れているのですが、オーケストラの皆さんの前に立つというのは全く別の体験で、その話を広上先生にしたら、「あれは武器だからね」と言われたんです。すごい武器を持っている人たちの前に立たなくてはいけないのでプレッシャーはありますが、皆さんの表情を見ても“何かが起きている”のではないかと感じています。 うまく説明できないのですが、本当に素晴らしい体験をしています。まだまだ曲がいっぱいあるので、これを今後も続けられるように今はとにかく必死に曲に向かっています。 共演者の皆さんが本当に真っすぐに役に向かっていく方たちで、楽器練習も手を抜こうと思えばいくらでも抜けるはずなのに誰も手を抜かない。みんな真剣に、しかも楽しんで練習しているので、僕も楽しいですね。 役同士で共鳴するものともう一つ、楽器を本気で練習して音を出すという感動があるので、それがこのドラマの特別な力になっているのではないかなと感じています。 ■撮影現場に常に流れる「清廉な空気」 ――撮影を重ね、俊平という役の捉え方に変化はありましたか? 今回の現場はものすごく浄化されている場というか、スタッフも気持ちのいい方たちが多くて、ロケに行くと、本当にすてきな風景の中でみんなが練習しているんですよね。よく知っている曲も改めて向き合うと本当に美しい曲で、キャストも真っすぐで純粋な方たちが集まっているので、清廉な空気が常に流れています。 それが俊平という役を作る上でも大きく作用していて、音楽に対しての愛情と喜びを感じる人たちと共鳴することで、俊平自身も喜んだり傷を癒されたりするということが、とても当たり前のように感じられるんです。なので、撮影に入る前に考えていた役とは全く違う、すごく無垢な役になっているのではないかなと思います。 ――オーストリア・ウィーンでの撮影もありましたが、いかがでしたか? ウィーンに実際に行けたのは非常にうれしかったです。そのシーズンは天気が悪いと言われていたのが、たまたまその数日間だけものすごい快晴だったんですよ。本当に気持ちのいい日が続いて、美しい風景がたくさん撮れて。日本でも富士山が見える場所によくロケに行くのですが、ここでも富士山がよく撮れていて、ウィーンの風景と空気感みたいなものが日本にもつながっている感覚があります。 ■芦田愛菜は「強いからこそ、真っすぐで温かく、柔らかい」 ――娘・響役の芦田愛菜さんの印象をお聞かせください。 強い人です。強いからこそ、本当に真っすぐで温かく、柔らかくいられるんだなということを改めて感じています。それはドラマだけじゃなくて、バラエティーでご一緒したときにもそうだし、待ち時間にも感じています。 僕なんかすぐに「寒い寒い」と言って、“寒がりマエストロ”とあだ名をつけられているのですが(笑)、芦田さんは撮影中もつらそうな様子を1ミリも見せないので、本当にすごいなと思いながら見ています。女優としてももちろん素晴らしいですし、人間としても素晴らしい方だなと思っています。 響という役は俊平の前では基本的に怒っているので、本番中は怒っているところしか見れていないのですが、この間すごく楽しそうにしているシーンを見かけて複雑な思いを抱きました(笑)。本当の響は、僕の目の前ではないところでたくさん現れていると思うので、その姿をすごく楽しみにしています。 ――俊平と響の親子関係についてはどう思われますか? 不思議なものですよね、親子というのは。誰もが一言では言えない複雑な関係や感情を持っていると思います。なので、例えうまくコミュニケーションが取れないことが続いても、その中でも微妙に関係が変化していって、「通じ合った」「また駄目になった」というその揺らぎを、丁寧に演じていきたいと思います。 ――最後に、視聴者へのメッセージをお願いします。 震災やコロナなどの困難なことからどうやって立ち直っていくかというとき、娯楽や音楽、物語といったものが大きな力を与えてくれるということをとても実感しています。そんなに大層なことではないかもしれませんが、このドラマに出てくるそれぞれのキャラクターが、みんな魅力的で個性的で、僕たちと同じように何かを抱えていて、それを音楽を通して乗り越えていく姿を、皆さんと共感し合いながら一緒に見ていきたいと思っています。