シートベルトが凶器になる、守る内蔵・傷つける内蔵の違いとは【岩貞るみこの人道車医】
(写真:レスポンス)
『正しくしよう、シートベルト。』 この言葉をしつこくコラムに書き続ける私の活動を、またひとつ後押しする論文が出された。時間のない読者のために、先に結論を書こう。 『シートベルトを着用すれば、実質臓器の損傷を防ぐ可能性は高まるが、シートベルトによる管腔臓器の損傷の可能性も高まる』。 つまり、シートベルトをしたことにより、小腸や大腸を傷つける可能性が高まりますよということである。 この、聞きなれない実質臓器と管腔臓器とは、なにか? 実質臓器は、肝臓や脾臓、すい臓、腎臓など、役割を果たす細胞でみっちりと構成されている臓器のこと。対して管腔臓器はその名のとおり管状の臓器で、小腸大腸、胃などがそれにあたる。 誤解しないでいただきたいのは、だからといってシートベルトをするなということでは決してない。シートベルトをしなければ、ドライバーの上体はハンドルに当たり、心臓破裂や肺破裂で即死になる可能性が極めて高くなる。頭からフロントガラスに突っ込んだり、さらに車外放出の可能性も高まる。なにはなくとも、シートベルトの着用は必須だ。だけど、問題は着用の仕方で、正しく着用しなければシートベルトが腹部に食い込んで臓器を傷つけるんですよという話である。 ◆シートベルトが守る内蔵、傷つける内蔵の違い ここから論文の中身を紹介しよう。タイトルは、「前方衝突の乗用車乗員におけるシートベルト着用の有無と腹部臓器損傷の差異-交通事故実態調査から-」。 今回も現場は、交通事故の実態研究では日本の頂点にある(私調べ)、日本医科大学千葉北総病院の救命救急センターだ。2009年11月から2022年5月のあいだに同センターに搬送された交通事故4086例のうち、前方衝突による患者491例を解析した結果である。筆頭執筆者は、橋場奈月医師(現・伊勢赤十字病院)。 救命救急センターゆえに、けがの詳細はもちろんわかる。また、シートベルトの着用の有無、さらに着用状況や乗車姿勢も、回復後の患者へのヒヤリングで確定されている。さらに、同センターと長年にわたり医工連携して研究をしている日本大学工学部により、事故車両そのものも調査され、ハンドルの変形具合や内装の擦過痕も確認してある。つまり、車内のどこにぶつけてケガをしたかが明らかになっているのだ。 研究の結果、出てきた数字は以下のとおり。
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レスポンス 岩貞るみこ