GRAPEVINE、レーベル移籍後の10年を総括するようなサマーライヴ。大阪城音楽堂をレポート
GRAPEVINEの〈The Decade Show : Summer Live 2024〉が開催された。 ここでは2024年8月3日、大阪城音楽堂でのライヴの模様をレポートする。
これまでできなかったことができるようになるのは、人としてバンドとして素晴らしいことなんじゃなかろうか
2024年8月3日、GRAPEVINEが大阪城野音でライヴをする。このことの重要性を真に理解している人は一体どれだけいるだろう? もはや〈危険な暑さ〉として死者まで出している日本のミッドサマー、その昼間の熱気も冷めやらない16時半開場の野外会場で、音楽を搔き鳴らそうというのだ。 言うまでもなくGRAPEVINEはメンバー全員50すぎ、すでにベテランの入口に差し掛かったバンドである。これまでポーカーフェイスで天邪鬼でさえあった彼らが、自らの肉体に鞭打ち、限界を超えたライヴを設定している。それは今回のサブタイトルに掲げられた〈The Decade Show〉――つまりビクターSPEEDSTAR RECORDS移籍後の10年間を総括し、Next Decadeに向けた意志表明と言っていい。彼らは熱中症、暑気疲労、めまい、倦怠感、食欲不振といった危険性を覚悟の上で、自らのバンドマン人生を酷暑の下に晒し、痛めつけ、懺悔のように燃やし尽くそうとしているのだ。 さらに大阪に着いて驚いたのは、梅田駅を中心に浴衣姿の男女が溢れ返っていることである。調べると、なんと本日は大阪の夏の風物詩「なにわ淀川花火大会」当日。それに加え、世間はパリオリンピックど真ん中。そこで私は再びハタと気付いた。この日に彼らが大阪野音をやる意味……快作『Almost There』は田中和将のルーツ回帰が表れた作品だったが、その方向性は発売以降も深化を続け、自らの故郷であるなにわの一大祭典とのコラボレーション、花の都で戦う日の丸戦士へのセレブレーションにまで行き着いたのではないか?…………。 ……ごめん、長くなりました。ンなわッきゃナイことをそれらしく書いてみたかった夏、しんどいですよねみなさん。WEB記事を読む際も、水分とることを忘れずに! ● ということで大阪城野音、大阪に着いた時は気温がまだ34度近くあってホントどうしようかと思ったが、会場は木々に囲まれ風が吹く。あー助かったと思ったけど、ステージ上はライトが熱いんだよなとそんなことばかり気になる中、メンバー登場。ほんといつもの感じである。 そして冒頭の3曲――これがもうエグすぎて地面にへたり込みそうになる選曲だった。「サクリファイス」(2015年発売『Burning Tree』)→「The Milk(of human kindness)」(2017年発売『ROADSIDE PROPHET』)→「East of the Sun」(2016年発売『BABEL, BABEL』)。アルバムツアー以外のGVツアーは意外なナツカシ曲の抜擢が興味の焦点になるものだが、それにしても今回はシ、シ、渋ぅ~……。 まあ、今回のテーマはSPEEDSTAR 10yearsの総括なので、普通に考えたらそうなるわなという感じだが、それにしても渋すぎませんか? 今日はこんな感じなんですか? 実際その後も「Scarlet A」「ソープオペラ」「弁天」「ミチバシリ」「楽園で遅い朝食」「雪解け」「HESO」……いやぁ、シ、シ、渋ぅ~。レアもレア、ほとんどカツオのタタキみたいな生焼けの楽曲を久しぶりに連食する気分である。 言うなれば今ライヴのコンセプトは“近過去の走馬灯”。しかしミドルエイジにとって10年くらいの近過去は全部最近みたいなもんだから、全然ノスタルジー感はない。個人的にはどれもついこの前聴いたばっかのように聞こえるが、それでも久々に聴くとナルホドなぁとかいろいろ気付いたり沁みたりする。 そういう意味で面白かったのは「雀の子」。♪雀の子マイベイベー。あの頃はあんなに狂気で鬼気迫っているように聴こえたのに、今や一緒に鼻歌で唄えているフシギ。おんどれうどん節ももはやネタ感が勝っている。先月出たばかりの最新曲「NINJA POP CITY」も田中は手裏剣投げパフォをやっていて楽しそう。そうか〈弁天様〉は〈弁天summer〉でもあって、ここにも夏があるんだなぁ~とか細かいところに感心しつつ、前半一番の個人的クライマックスは「吹曝しのシェヴィ」。ドラムのヘリを叩く亀ちゃんのリズムと金戸氏のベースラインが絡み合う。ワシのいっちゃん好きな哀愁やねん。淀川花火はまだはじまっていないが、心の中に四尺玉の大輪いただきました! ● 演奏はいつものように進んでいく。見ているコッチがヘバっていても、アンサンブルはタイト。さすがプロのバンドマン。だが曲間の切れ間には各自冷感スプレーを頭や腹に吹きかけ、ステージ上は大変そうである。ああ、そうそう、曲が途切れると会場を囲む木々からフィードバックノイズみたいなセミの鳴き声が降り注いで、それがさっきまで鳴っていたアニキのスライドと共鳴していと良きアトモスフィアでもある。借景ならぬ夏の〈借響〉とでもいうべきか。 「日も暮れてきていい感じになってきました。あと7兆曲やり切ります!」 田中の御機嫌と桁数はうなぎのぼり。次は〈京〉まで行くのだろうか。ラストパートの一発目は、これも恒例となった前口上「今こそオレに賭けてみな。You bet on me!」から「Ub(You bet on me)」。これも良かった。硬質なカッティングから〈今ひっくり返しちまえ〉だもんね。 ここまでライヴを聴いてきて私が感じたのは、今日のバンドの出音の強さだった。音に圧があるというか力強い。だから〈今ひっくり返しちまえ〉にも説得力が出る。だよな!と、こちらも気持ちが乗る。簡単に言っちゃえば〈元気そう〉ってことに過ぎないのだが、旧友であれバンドであれ、最近は人に会うって別にそれだけでいいんじゃないかと思うのだ。 安っぽいリズムボックスと田中の野太いリフからの「HESO」。レッドライトで炎上して、そのまま「リヴァイアサン」でロックンロール。田中は肚からの声でおらびあげる。この馬力があればまだまだ行けるなぁと嬉しくなったのは、このあたりだったか。 そこからセンチに落として「さみだれ」、絶望のキワのような「Gifted」、そして本編ラストは「SEX」――毎回思うのだが、この人たちは曲順というかライヴ全体のストーリーを一体どう考えているのだろう? しかし「SEX」を聴きながら――「SEX」は最新作『Almost there』収録であるが――フト思うのは、こんなシンガーソングライター然とした曲、10年前の田中和将だったら出せなかっただろうな、ということである。「ねずみ浄土」あたりから田中を覆っていた殻が破れ、これまでなかったトーンをバンドに持ち込むようになった。田中曲の存在感は増し、GRAPEVINEは新たな武器を手に入れた。それは近年のてんやわんやでさらに増幅され、変質したりして、あられもない現代風ソウルミュージックである「SEX」へと辿り着く。 そう考えると、ここ10年でもいろいろあったんだと思わされる。それを成長と呼ぶのかどうかはわからないけど、これまでできなかったことができるようになるのは、人としてバンドとして素晴らしいことなんじゃなかろうか。 ● アンコール1曲目は「Readey to get started?」。今宵も空に向けて腕を突き上げるのは、ちゃんと背負おうとしているからだ。「風待ち」も「ナツノヒカリ」も使えなかったこの日の夏ソング枠を担ったのは「SPF」。〈どうか終わらないで〉という晩夏の哀願は、人生の晩年を迎えつつあるおじさんにヒリヒリくるメロウネスだと痛感する。 そしてこの10年間を締める最後はもちろん「Arma」。アンセムという言葉がこれだけ似合う曲もなかなかない。〈武器はいらない/次の夏が来ればいい〉。まったくもってその通りじゃないか。感極まったか曲間に拍手で反応する客も目立つが、そういえばこの10年間にはコロナもあった。歓声が消えた時期もあった。それらを乗り越えて響く「Arma」にはどこか万歳三唱みたいな、たまらない情緒が染みている。さあさ皆の衆、ばんざーい、ばんざーい、ばんざーい! すべてが終わり、田中はいつもの「アリガットサン」に「オツカレッサン」を織り交ぜ帰ろうとしたが、消える間際に早口で「幸せでした!」と口にしたように聞こえた。ん? 空耳だったのかな? ということで、どーしても気になってライヴ後、「最後『幸せでした』って言ったよね?」と確認したら「言いましたよ」と苦笑しながら言っていた。 田中和将、幸せな真夏のライヴだったみたいです。 【SET LIST】 01 サクリファイス 02 The milk(of human kindness) 03 East of the Sun 04 Big tree song 05 Scarlet A 06 ソープオペラ 07 雀の子 08 NINJA POP CITY 09 弁天 10 吹曝しのシェヴィ 11 MAWATA 12 ミチバシリ 13 楽園で遅い朝食 14 Ub(You bet on it) 15 雪解け 16 HESO 17 リヴァイアサン 18 さみだれ 19 Gifted 20 SEX ENCORE 01 Ready to get startes? 02 SPF 03 Arma
清水浩司