巨大な細胞「筋線維」が備える高度なシステム 激しい運動や生きるための諸問題に対応するため
心臓の筋肉の重大な欠点は
こうした能力も、他の細胞には見られません。たとえば同じ横紋構造を持つ心筋は単核細胞なので、1個の細胞が死んでしまうと、その部分を新しい細胞で補うような仕組みはありません。 エネルギー的には粘り強く、血液のポンプとして無限に近い回数の収縮を繰り返すタフな組織でありながら、心筋梗塞を起こすとたちまち致命的な事態になってしまうのはそのためです。 生きるために必須の器官であるにもかかわらず、残念ながら自力で再生することができない。これは心筋の唯一にして重大な欠点と言えます。 ちなみに、体をつくっている細胞や組織は大きく2つのタイプに分けることができます。一つは「再生系」の組織をつくる細胞。皮膚や骨髄、血球などがそれに当たります。これらはつねに新しい細胞を生み出し、古いものとの入れ替えを行なっています。そして新しい細胞をつくる能力がなくなった時が、その組織の寿命ということになります(分裂寿命)。 もう一つは「非再生系」の組織をつくる細胞。筋肉や神経などが挙げられます。これは発生→分化という過程を経てある組織に定着したら、新しい細胞と入れ替わることなく死ぬまでその状態を維持します。体の成長にしたがって伸びたり太くなったりはしますが、細胞自体が入れ替わるわけではありません(ただし、細胞は同じでも分子レベルでは中身の入れ替えはつねに行なわれています)。そしてその細胞が担う機能が維持できなくなると寿命を終えることになります(分化寿命)。 筋線維は典型的な非再生系の細胞でありながら、一部が死滅してしまっても再生させられる高い能力を備えた組織です(完璧に同じ組織をつくることはできないかもしれませんが)。 この能力を持つために、筋線維は「増殖」も可能であると考えられています。つまり、筋トレをすると筋線維が太くなるだけでなく、筋線維の数も増えていると理論的には推測されるのです。 ただ、今のところ筋線維が増えたことを実証する手法がないので、明確な回答は出されていません。