『からかい上手の高木さん』永野芽郁の予期せぬ涙、高橋文哉のやりとり…今泉力哉監督が出会った場面
――そうなんですか!? 僕としては、この段階では少しコミカルにいった方がいいかなと思っていました。でも編集部や音の仕上げチームから「ナレーションは外した方がいい」と言われまして。それで外してみたら、沈黙を含め、高木さん側も西片を気にしている感じが見えて、探り合いの様子が深まって、「そうか」と僕も納得しました。終盤の長回しに向けてこのあたりはまだ軽めにしようと思っていたんですが、僕が考えていた以上にこの時点で空気が出来上がっていたんです。 ――いまお話に出た終盤、まさに高木さんと西片が教室で並んで話す場面が素晴らしかったです。監督として「横並び」にはどんな思いがありますか? 教室の2人もそうですが、歩いている時も横並びですよね。今回特にいいと思ったのは、相手を見ずにしゃべれること。向かい合わないからこそ、ちょっとした視線のやりとりが効くし、本音を言うのが難しい時も、横並びだと言える。もっとちゃんと伝えたい時は、体ごと相手に向く。そういった差も描けて、やっぱり横並びはいいなと思いました。
あとは物理的に、2人とも正面を向いているので、ワンカットで両方の顔が見える絵を撮ることができる。そういう意味でも僕の監督作では昔から大事な場面は横並びが多いのかもしれません。カット割りしたくないんですよ。カット割り自体に作意を感じてしまって。そもそも映画ってフィクションだし、本来カットの積み重ねで構成されているものですけど、本当に大事な場面はできるだけ2人きりにしたい。撮れた素材をああだこうだといじりたくない。触れたくない(笑)。そういう静かな固定カメラ長回しの場面って、僕はピン送り1つでもカメラの存在を感じてしまうんです。でも、もちろん隠しカメラではああはならなくて。細かい演出は各部署がしてくれていまして、今回の終盤の教室の場面で言うと、校庭での野球部の音を少しずつ静かに、バレないように消していってます。なるべく2人きり、2人とお客さんだけにしたかったのです。 ■クライマックスの衣装は「白で」と ――教室での2人を物語のクライマックスに持っていくことは、最初から決めていたのですか? そうですね。やっぱりあの席がいいなと。衣装を決める時にも、最初は長い場面になるし、山場だから、もうちょっと色味のある衣装のほうがいいんじゃないかという意見もありました。着まわしている中でも少しだけ特別な格好にするとか。でも自分としては、ここは上半身は2人とも白じゃないとダメだと思いました。学生の時に戻ったような格好にしたかったんです。高木さんのスカートも学生服に見えるチェック柄。衣装からも、中学生時代に戻った感じにしたかったし、2人が初めて本音で向き合う場所は、ここだと思いました。 ――出来上がった作品を観て、監督も泣いたそうですね。 恥ずかしながら少しうるっとしました。高木さんと観客の全員が、「高木さんが西片を好きだ」と分かっている中、西片だけが気づいていない瞬間がありますよね。「私は好きな人いるよ」と言われて、西片が「俺?」となるまでのあの空気に、すごくグッときて、ピーク感にぞわぞわしました。あと、編集して仕上げをする中で「俳優さんって本当にすごいな」と思いましたね。このシーンの芝居は本当に繊細。