『マイハル』親子の壁を壊す佐弥子のリノベーション力 道枝駿佑が大人と少年を演じ分ける
将来の不安について仲間と分かち合ったり、うまくいかない恋について友達と一緒に泣いたり……そのときは苦しくて切ないけれど、振り返ってみれば「最高に青春だったな」と宝物のような瞬間だったりする。 【写真】拓(道枝駿佑)と腕を組む佐弥子(広瀬アリス) 火曜ドラマ『マイ・セカンド・アオハル』(TBS系)第7話を観て、そんな青春の1ページに“素直になる難しさ”があったことを思い出した。第6話の終わりに、ぶつかった佐弥子(広瀬アリス)と拓(道枝駿佑)。その原因は、世界的建築家・真保誠(石丸幹二)に褒められたと喜ぶ佐弥子に、拓が「正直、向こうはテキトーに言っただけだと思うけど」と噛み付いたことだった。 どうして拓がそこまで否定的なことを言ったのか。そのフタを開ければ単なる嫉妬だった。愛人の子として生まれた拓は、かねてより父親の真保との折り合いが悪い。そんな真保が偶然出会った佐弥子に対してリノベーションの才能があると褒めたことを、「知ったようなことを言われたのがムカついた」というのだ。こうして言葉にするとなんとも子どもっぽい言い分。でも、それが等身大の拓の精神年齢なのだろう。これまで、佐弥子に対して消化試合のような人生が嫌なら「大学生になればいい」と発破をかけたり、建築学科の課題を前にすぐにスランプに陥ってしまう佐弥子に落ち着いてアドバイスしたりと、実際の年齢以上に大人びているように見えた拓。 だが、本当の拓は父親と向き合うことを避けている少年のままの部分があったのではないか。もしかしたら、あんなに「爆イケ」なのに恋愛に関しては「奥手でヘタレ」と言われてしまうのも、この親に対しても素直になれなかったバックグラウンドがあるからなのかもしれない。とはいえ、その拓の素直になれない性格は真保譲りなところも大きい。本当は息子の姿を一目見ようと、バズーカ砲のような望遠レンズ持参してLAまで飛んだこともあった真保。そのとき隠し撮りをした写真を今でも大事に財布に入れているなんてことは、拓には伝わるわけもない。 この親にして、この子あり。そんな不器用な父と息子の間に立ちはだかった壁を一気にぶち壊したのが、佐弥子だった。真保から招待されたレセプションパーティーに、意を決して拓を連れて行くことに。すると会場で顔を合わせるやいなや「大嫌い」とお互いに罵り合う真保と拓。なんとか間に入ろうとした佐弥子の努力もむなしく、2人の暴言は止まらない。しかし、よくよく聞くと「親のスネは子どもがかじるためにあるんだ、かじるだけかじれ!」「世間体なんて気にしてたらよそで作った子どもなんて引き取るわけないだろ!」と端々に真保の拓への愛情が見え隠れしているではないか。 「俺はまだあんたのこと父親とは認めてないから」と啖呵を切って会場を去った拓だが、佐弥子と2人きりになると「スッキリした」と、その表情は思いのほか晴れやか。そして、こんなふうに思ったことをぶちまけた経験はなかったと笑うのだった。もしかしたら佐弥子の「リノベーションの才能」は、真保と拓の親子関係の再生にも通じていたのかもしれない。「空間を読み取る力」は言葉にならない真意を汲み取る優しさであり、「あるものを活かす力」はそこにある想いを諦めない心とも言える。佐弥子は、その直感レベルで感じたものを素直に相手に伝えたり、実行することの大切さを、学び直しのタイミングで心得たように思う。 30歳にして大学に入ったことも、10歳年の離れた拓と付き合ったことも「後悔しない」と、佐弥子が母・久美子役(いしのようこ)に話していたシーンが印象的だった。素直になるというのは簡単なことのように聞こえるけれど、自分の言葉に責任を持つ大人になるほど難しくなるもの。だからこそ、素直さと責任感のバランスを取ろうともがくことで、人間としての器を大きくしていくのかもしれない。 一方、サグラダファミリ家で生まれたもう一つの恋を通じて、ルームメイトたちがそれぞれの大切な想いに対して素直になっていく様子も描かれた。寛太(濱尾ノリタカ)への恋心を認めた澄香(箭内夢菜)。そして寛太も気づかぬうちに澄香がいかに大切な存在だったのかを受け入れていく。 また、この場所に集う人々がどれだけ自分らしくいさせてくれる大切なメンバーなのかを語る龍之介(水沢林太郎)に、決まりごとよりも人の気持ちが大切なのだと気づき恋愛禁止のルール撤廃に動いた真凜(飯沼愛)。そんな彼らを見ながら「成長したよね」と嬉しそうなキイナ(伊原六花)の笑顔もまた、第1話のころと比べると実に穏やかだ。 素直になることは勇気がいる。それは、その一歩を踏み出すことで、自分自身が傷ついたり、大事な誰かを傷つけてしまうのではないかと躊躇するから。でも、現状を思い切って一度解体することでしか得られない快適な未来もある。そして、そんな大胆なリノベーションにこそ、それぞれの想いを汲み取る話し合いが重要だということが伝わる回だった。将来に向けて様々な可能性を模索する佐弥子と拓の間には、またもや関係性を見つめ直すタイミングがやってきそうだ。果たして、2人はしっかりと話し合って、お互いに納得のいく「未来」を設計することができるのだろうか。
佐藤結衣