新NISA新規口座数が急増、スマホに特化したPayPay証券の躍進を支えるフィンテックの発想力
スマートフォンに最適化した金融サービスを提供するPayPay証券の快進撃が続いている。特に、2024年1月のスタートとともに取引の取り扱いを開始した新NISAの口座開設は、6月末時点で30万件を突破し、9月末には34万件を突破した。この新NISA口座数の増加ペースは1000万以上の利用者を抱えるネット証券大手のSBI証券、楽天証券に次ぐ規模になっている。また、PayPay証券の開設口座数も9月末には123万口座を超え、直近1年間で口座数が2倍以上になった。まるで新NISAの申し子のように利用者を急増させているPayPay証券は、どんな魅力があり、何をめざしているのか? PayPay証券代表取締役社長執行役員CEOの番所健児氏(写真)に聞いた。 ――新NISAの口座開設が急ピッチで進んでいますが、この要因をどう考えていますか? NISAは、家計のメイン口座だと思いますが、スマホ証券を家計のメイン口座と考える人が当たり前になったのでしょうか? 既存の金融サービスに満たされないニーズが多く、その潜在的なニーズに当社のサービスが届いているのだと思います。たとえば、オフラインの伝統的な金融機関は、口座開設までに時間がかかったり、手続きが面倒だということもあるでしょう。オンライン(ネット)金融機関は、2000年代になって手数料の水準が低いことなどを手掛かりにして人気を集め、証券取引サービスではもはやメインプレイヤーの地位を確立していますが、手数料の低さだけでは満足できないという方々が少なからずいらっしゃるのでしょう。 近年の大きな流れとして金融サービスの提供先を、自分自身で選ぶということが当たり前になってきました。それこそ昭和の時代は、会社に入ると給与振込口座を会社が指定する銀行に開設し、給与を受け取る口座が公共料金の引き落としや住宅ローンの申し込みなどにつながってメイン口座になっていくという流れがあったと思います。 2000年代になると、ネット銀行の方が手数料が安い、ATMに並ばずに振り込みができるなどの利便性で支持されて徐々にメイン銀行として切り替えて使う方が増えてきました。同じように証券サービスもネット証券をメイン口座にする流れができ、「貯蓄から投資へ」の掛け声の下で急速に存在感を高めていきました。そこに1人当たり1800万円の非課税投資枠がある新NISAが始まって、もはや資産運用は誰もが自分事として考えざるを得なくなってきました。 資産運用が日常的に当たり前の行為になってくると、日常的に当たり前に使っているツールを使いたくなります。日常的に使う情報端末はデスクトップPCからタブレットやスマートフォンに移行しています。このモバイルシフトの動きが、証券会社を選択する際にも影響してきているのだと思います。私どもはスマホを使って分かりやすく使いやすいサービスを提供することに全力を注いでいます。その私どものサービスが「満たされないニーズ」に応えることができているのではないかと思います 金融サービスは、ブランド力よりもベネフィットが重視される傾向が強いのではないでしょうか。キャンペーンなどの単体のベネフィットや、ポイント制度に代表されるようなグループの連携によるメリットなど評価の軸はありますが、日常的に使うサービスということを考えると各サービス間のシナジー効果の高いサービスが選ばれます。そこで決済手段として約6600万ユーザーという圧倒的なユーザーにご利用いただいているPayPayと連携した当社のサービスを選んでくださっているのだと思います。 ――NISA口座の稼働に向けてどのような工夫や改善に取り組んでいるのでしょうか? NISAを使って資産を作ろうという目的で口座を開いておられるので、投資信託の積み立てを始めたり、株式を購入してみたり、何らかの行動を開始されるのが一般的です。私どももわかりやすく使いやすいUI(ユーザーインターフェイス)やUX(ユーザーエクリペリエンス)を実現するために日々の改善に努めています。 もちろん、FAQ(頻繁にたずねられる質問)を拡充し、コールセンターでの応対品質をあげることにも努めていますが、より直感的に使いやすいUIUXを提供することが重要だと考えています。 たとえば、ネット証券を使っている方が最初に困ることは、「証券口座に入金する方法が分からない」ということなのです。せっかく口座を開いたのに、入金方法がわからないままに資産運用をあきらめてしまう人もいます。PayPay証券は、PayPayを使っておられる方は、口座に入金することを気にすることなく、普段のPayPay決済と同様にPayPayマネーやPayPayポイントで投資信託や株式を購入することができます。 また、ネット証券ではサービスアイコンをタップした後で出てくる最初の画面が、マーケットの価格情報であったり、ニュース画面だったりします。PayPay証券では、お客様の資産残高が最初にでてきます。お客様に関心があるのは、今の日経平均株価よりも、ご自身の資産内容の変化です。お客様が必要とされる情報内容が一番早く確認できるツールになっています。 サービスを提供し、日々検証する中で、お客様がいくつかのグループに分かれることが分かってきました。たとえば、投信のつみたてをコツコツと続けている方、また、株式の売買を積極的に行う方などといった形です。そういった利用実態を受けて、それぞれのお客様の利用意向に合わせたインターフェイスを自動的に割り当てるサービスを開発中です。インターフェイスをお客様のニーズに沿った形にカスタマイズできれば、より快適に使っていただけるようになります。 私どもは証券会社であるばかりでなく、フィンテックサービスの会社でもあります。テクノロジーを活用してお客様が「こうしてほしい」と考えられるサービスを提供するということにも情熱をもって取り組んでいます。 ――10月からサービス開始された「PayPayおまかせ運用」の利用状況はいかがですか? 「キャピタル世界株式ファンド(DC年金つみたて専用)」と「eMAXIS/PayPay証券 全世界バランス」は、どちらのファンドの利用が多いですか? 想定以上に好調なスタートになっています。新興国を含む全世界の株式に投資する「キャピタル世界株式ファンド(DC年金つみたて専用)」と国内外の様々な資産に分散投資してロボアドバイザー以上に資産配分比率を自動的に最適な比率に変更してくれる「eMAXIS/PayPay証券 全世界バランス」のどちらかを選び、金額(100円以上1円単位)と頻度(1回、毎日・毎週・毎月のつみたて)を設定すれば資産運用がスタートできるという手軽さは、これから資産運用を始めようと考えておられた方々がまさに望まれていた体験なのだと思います。 「PayPayおまかせ運用」を使うために新規に口座を開設していただいている方もいらっしゃいますし、既存のお客様が「PayPayおまかせ運用」を始めていただくケースも少なくありません。2つのファンドの利用状況は、ほぼ半々です。 ――今後のNISAの利用を促すための施策は? また、当面の経営上の重点的な目標は? NISAは想定以上に強いニーズがあるとともに、ひとくくりにはできない多様な層の方々が利用されています。若い新社会人から50代、60代という年代の方々まで年齢層も広いですし、投信のつみたてから、米国株式の売買まで利用したいサービスの内容も様々です。そのようなお一人おひとりのニーズに合ったサービスをOne to Oneで応えられるようにしていきたいと思っています。大事にしている指標は、口座がお客様の役に立っているか、稼働しているかということです。 新NISAの獲得が急速に進んでいるスマホ証券ということから、当社のサービス利用者は若年層の資産形成層に限られるとイメージされてしまうかもしれませんが、当社に口座を開いてくださっている方々は、50代、60代の方々も決して少なくはありません。保有資産を多く持っておられる方もいらっしゃいます。 「PayPayおまかせ運用」で投資一任勘定ではないもののロボアドバイザーのサービスに似ている「eMAXIS/PayPay証券 全世界バランス」を2つの選択肢の中の1つに選んだのも、つみたて投資による資産形成だけではなく、ご自身のまとまった資産を安定的に運用したいと望まれている富裕層の方々にも使っていただけるサービスとして提供しています。実際に「eMAXIS/PayPay証券 全世界バランス」をNISAの枠を超えて特定口座で購入するというニーズもあります。 また、当社の米国株式取引は相対取引ですので、24時間365日で注文することができます。この利便性を評価していただいて、株式投資に積極的に取り組まれる方もいらっしゃいます。 お客様一人ひとりの証券サービス・ニーズをくみ取って、どんなお客様でもご自身の必要に応じたサービスを簡単にスムーズにご利用いただける環境を提供し、資産運用が当たり前の時代に最もよく利用される証券会社をめざします。「資産運用を『みんな』のものに」をスローガンにサービス開発をしてきましたが、新NISAをきっかけに資産運用を始めようと考えた方に最初に使っていただけるサービスとして、引き続き磨きをかけたいと思っています。
ウエルスアドバイザー