【社説】フリーランス新法 多様な働き方守る社会に
企業や団体に属さずに働く人を不利な取引から守る「フリーランス新法」が1日に施行された。 多様な働き方が広がっている。誰もが安心して働ける環境づくりは急務だ。政府は新法を浸透させるとともに、フリーランスの実態を把握し、安全網の充実に取り組まなくてはならない。 フリーランスとは個人で仕事を請け負う働き方で、副業や定年退職後に選ぶ人が増えている。IT技術者やデザイナーといった専門的な職種から、食事の宅配サービスの配達員まで幅広い。 問題は、フリーランスが業務の発注者より弱い立場にあることだ。2020年の政府の調査では、約4割が報酬の未払いや一方的な減額などのトラブルを経験している。取引の打ち切りを恐れ、泣き寝入りした事例も少なくない。 新法の目的は取引の適正化と働きやすい環境整備だ。 頻発するトラブルを防ぐため、業務を発注する事業者に業務内容、報酬額などの取引条件を書面やメールで明示することを義務付けた。 発注者がフリーランス以外であれば、業務完了から60日以内に報酬を支払うことやハラスメント対策を求める。 1カ月以上の業務委託の場合は、報酬を不当に低くする「買いたたき」や発注した成果物の受領拒否、報酬減額などを禁止した。 6カ月以上の業務委託は、育児や介護と業務が両立するように必要な配慮を義務付けた。契約を中途で解除する際は事前に予告し、理由を開示することも明記した。 発注側と受注側の取引を適正化する法律には「下請けいじめ」を防ぐ下請法がある。資本金が1千万円を超す親企業が対象で、建設工事は対象外となっている。発注者の規模や業種を問わない新法の方が対象範囲が広い。 フリーランスに対する理不尽な扱いは許されない。社会全体で目を光らせたい。 気がかりなのは新法の認知度が低いことだ。公正取引委員会と厚生労働省が5、6月に実施した調査では、法律の内容を知らないと回答したフリーランスは4人に3人に当たる76・3%だった。発注者も50%を超えた。 政府は経済団体や労働組合などと連携し、新法の周知徹底に努めるべきだ。 新法による就業環境の改善を期待したい。ただ病気やけが、失業に備える安全網は極めて脆弱(ぜいじゃく)である。労災保険に特別加入する制度があるが、保険料は全て自己負担だ。 昨年、ネット通販の商品配達中のフリーランスが負傷し労災と認定された。実態は雇用労働者に等しいと労働基準監督署が判断した。働く側が不利益を被る「名ばかりフリーランス」は放置できない。 ネットを介して単発で仕事を請け負うギグワーカーのように、新しい働き方も定着している。労働実態に応じた安全網の見直しが必要だ。
西日本新聞