水木一郎アニキの隠れた名ゲームソング『バイオニックコマンドー』とは? 魂を震わせ、耳に焼き付く名曲を振り返る
アニメソング(アニソン)界の帝王にして、いまや紛うことなき伝説である故・水木一郎さん。 【画像】『バイオニックコマンドー』の歴史とスクリーンショット そんな水木さんはアニソンに限らず、ゲームソング(ゲーソン)も幅広く歌われてきた御方だ。特に『スーパーロボット大戦』シリーズでは主題歌に留まらず、自ら声の出演も果たすなど、深々と関わったことがファンや制作関係者の間では語り草になっている。 逆にアニソンのディスコグラフィと比べてしまうと、ゲーソンは前述の『スーパーロボット大戦』シリーズを除けば、いわゆる「知る人ぞ知る楽曲」の方がやや多めの印象だ。ただ、そんな知る人ぞ知る水木さんが歌ったゲーソンのなかで、筆者個人が相当前から「もう少し注目を集めてもいいのでは?」と思えるアツい魂の名曲がある。 その名曲こそが『バイオニックコマンドー』である。 ■硬派でシリアスな『バイオニックコマンドー』との謎めいた(?)コラボレーション 『バイオニックコマンドー』とは、2009年6月25日にカプコンから発売された3Dアクションゲーム(公式ジャンル名は「新世代スウィングアクション」)。 アメリカの架空都市「アセンション・シティ」を廃墟と化したテロ組織「バイオレイン」掃討のため、ワイヤーを射出する「バイオニックアーム」を左腕に装着した主人公「ネイサン・”ラッド”・スペンサー」が挑むストーリーを描いた作品だ。 元は『トップシークレット』という、1987年にアーケード向けに展開されたアクションゲーム。ジャンプがない代わりに、ワイヤーガンから射出されるワイヤーを天井などに引っ掛けて上の足場へと移動したり、振り子運動による振幅の勢いを利用して跳ぶという、独特なアクション(スウィングアクション)を特徴としていた。 海外では『BIONIC COMMANDO』の名で発売。その後、ファミリーコンピュータ(ファミコン)向けにシステムやアクションをベースにした完全新作も作られた。 ちなみにファミコン向けに作られた新作は、日本国内では『ヒットラーの復活 トップシークレット』と名づけられている。その名の通り、ナチスドイツとその総統アドルフ・ヒトラーが残した禁断の計画をめぐる架空の戦いを描く、大変センセーショナルかつ緊迫感あふれるストーリーを見どころとしている。海外ファミコン(NES)版はこの設定がオリジナルのものへと大きく変更されており、タイトルもアーケード版と同じく『BIONIC COMMANDO』になっている。 さらに1992年には、世界観からキャラクターまで完全に一新されたゲームボーイ版も発売。こちらは日本語版でも『バイオニックコマンドー』の題名が付けられている。 2009年発売の『バイオニックコマンドー』(以降、2009年版と記す)は、1988年発売のファミコン版の続きを描いた作品である。 厳密には2008年発売の『バイオニックコマンドー マスターD復活計画』(以下、マスターD復活計画)の続編で、ストーリー、世界観などは海外NES版をベースとし、ナチスドイツ、アドルフ・ヒトラーといった要素はほとんどカットされたオリジナルになっている。 そのような作品的に硬派で、シリアスを地で行く本作のプロモーション向け応援ソングを水木さんが熱唱したのだ。 「……どういう組み合わせだよ!?」とツッコミたくなるのも無理はない。筆者もツッコまざるを得なかった。 しかも、作曲はゲーム『サクラ大戦』の「檄!帝国華撃団」、アニメ『勇者王ガオガイガー』の主題歌「勇者王誕生!」などで知られる作曲家の田中公平氏である。繰り返しになるが……「どういう組み合わせだよ!?」。 ※完全に余談だが、田中氏は2024年7月より放送開始の『グレンタイザーU』で劇伴を担当する。 なお、楽曲の初お披露目は『バイオニックコマンドー マスターD復活計画』のときだった。しかし、その時点では1番までで、2番以降が聴けるフルバージョンは2009年版およびシングルCDの発売まで待つ形となった。 最終的には楽曲を収録したシングルCDが先行し、その後、ゲームが発売される流れを辿っている。いずれもアウトロまで聴ける点では共通しているが、ゲームの方には特別なプロモーションビデオ(ミュージックビデオ、MV)が収録されているという大きな違いがある。 ■ミスマッチすぎる組み合わせが生み出した面白おかしさと、水木さんの熱唱が魂を震わせる そんな経緯を経て誕生した『バイオニックコマンドー』の応援ソングだが、結果として非常に面白おかしく、それでいて熱い楽曲に仕上がっている。 そもそも、ゲームの『バイオニックコマンドー』自体、ストーリーや世界観が硬派でシリアス、2009年版に至ってはCEROレーティングが17歳以上対象と、とことん年齢層の高いユーザーをターゲットにしている。そこにアニソンの帝王たる水木さんが歌う応援ソングを重ね合わせたことからして、とてつもないミスマッチが起きている。 これに加えて、楽曲の出だしも強烈極まりない。子どもたちによる「GO!GO!GO!バイオニック!」の合唱(コーラス)から始まるのである。 仮にも17歳以上対象のレーティングが付けられているゲームなのに、である! おかげで、元の『バイオニックコマンドー』というゲームの雰囲気から豪快に脱線すると同時に、左斜めの方向へと吹っ飛ぶがごとし始まりになってしまっている。 以降は水木さんが歌う流れになるが、歌詞そのものは2008年発売の『マスターD復活計画』のストーリー展開、キャラクター設定にフォーカス。主人公スペンサーは何を特技とするのか、何のために戦うのかといった過程が水木さんによって熱く歌い上げられていく。 そして、サビで炸裂するのが水木さん渾身の「バイオニック!」の連呼から、締めでの「YEAAAAAAAAAH!YEAH!」のシャウトだ。聴いているだけでも耳に残ると同時に、思わず釣られて歌ってしまうほどインパクトのあるパートになっている。『マスターD復活計画』発売当初のバージョンはここで締め括られたが、後のシングルCD、2009年版のMVには2番以降が含まれている。 2番以降の歌詞でも『マスターD復活計画』がフォーカスされているが、MVでは2009年版のゲームプレイ映像が含まれているほか、その後のストーリーや世界観を表した演出になっている。しかし、MV中で使われる字幕テロップのフォントのおかげで、元の硬派な雰囲気は皆無。むしろ、逆に明るくてポップな雰囲気がにじみ出たものになってしまっている。 そして、フィナーレへと入っていくのだが、2009年版MVでは衝撃の展開が描かれている。突如、画面を覆い尽くす「そしてもう一人、バイオニックアームを持つ男が!!」とのテロップが出たのち、なんと水木さん御本人が登場。 それから間もなく「発動!トップシークレット!」の掛け声と決めポーズと共に、水木”バイオニック”一郎(※筆者が勝手に命名)へと変身するのである。 その後、MVではバイオニックアームを装備した水木さんの写真も映し出されつつ、流れ打つ「ダ」の嵐と共に締めくくりとなる。もちろん、そこにも前述した子どもたちの「バイオニック!」のコーラス入りである。 以上、大体の流れを文字に起こしつつ書いてみたが、あらためて振り返っても「なぜこんな曲を……」との思いが先行する。だが、実際に聴いてみればツッコミどころは山のようにありつつも、水木さんの熱唱と、それを引き立てる田中氏による印象的な旋律も相まって、素晴らしく印象的に残る(耳に焼き付くとも言う)楽曲に完成されている。 なにより、元の『バイオニックコマンドー』についてまったく分からなくても、聴いているだけでも楽しく、熱い心持ちになれる作りになっているのが特筆に値する。思わず自分で歌ってみたくなる部分も多く、とりわけ随所で炸裂する「バイオニック!」の叫び、「発動!トップシークレット!」の決めゼリフ、最後の「ダ」の嵐は嫌でもそんな衝動にかられるだろう。 水木さんが歌うアニソンには“魂を奮起させる力”というものが備わっているように思う。本楽曲にもそれが込められていると同時に、筆者の印象としては5本の指に入るレベルではとの印象なので、もし、興味が湧いたのなら聴いてみていただきたいところである。 ■知る人ぞ知るアツい魂の名曲。歌えば元気になれて、心もバイオニック! とはいえ、2024年現在に聴く手段はあるのかとなるところ。なにせオリジナルがお披露目されたのは14~15年前だ。MVが収録されている2009年版『バイオニックコマンドー』にしても15年前のゲーム。PlayStation 3、Xbox 360、Windows向けに発売されたタイトルである。 そのため、MVを視聴したいなら、当時のゲーム機とゲームソフト本体が必須になる。本稿執筆時点でも、2009年版の現行プラットフォームへの移植およびリマスターは実現されていない。しかも、開発全般を担当した会社に至っては解散してしまっており、実現の可能性も極めて低いと言わざるをえない。それにもし、リマスターが実現したとしても、(権利的な面から考えて)MVが収録された状態になるかも怪しいところだろう。 しかし、楽曲だけならシングルCD、そして水木さんが歌ったゲーソン中心に収録したアルバムが2024年現在もAmazonなどの通販サイトで販売中である。価格的なハードルの低さならシングルCD、そして内容の充実ぶりで選ぶならば『ゲーマーANIKI 完全攻略~水木一郎ゲームソングコレクション~』がいいだろう。 特に『ゲーマーANIKI 完全攻略~水木一郎ゲームソングコレクション~』には、『バイオニックコマンドー』以外の水木さんが歌うゲーソンが16曲収録されている。 水木さんが歌ったすべてのゲーソンを網羅した内容ではない点には注意が必要である(筆者としては『がんばれゴエモン ネオ桃山幕府の踊り』『がんばれゴエモン でろでろ道中 オバケてんこ盛り』の未収録が惜しすぎる)。しかし、アニソンに限らず、ゲーソンでも魂を震わせる楽曲を歌われた水木さんの一面を知れるので、興味があればチェックいただきたいところだ。 ちなみにシングルCDの方には、ロックバンド「ガガガSP」による『デッドライジング ゾンビのいけにえ』(※2009年にWiiで発売)のテーマ曲も収録されている。本稿の話題からは脱線するが、こちらもインパクトのある楽曲になっているので要チェックである。 欲を言えば、配信の方でも展開されればと思うのだが、それについては将来的になにか、前向きな動きがあることを願うばかりだ。 2024年現在、紛うことなきアニソン界の伝説となられた水木さんだが、その功績は今後も長く語り継がれていくと同時に、氏が熱唱しながらも、それまで知る人ぞ知る感じだった名曲の数々にもスポットライトが当たる展開が生まれてほしいと思う。 『バイオニックコマンドー』はまさにそのひとつであり、筆者個人としてはより多くの人に知られると同時に歌われるようになってくれればと願うのだ。 ちょうど2024年6月25日で、MVが収録されている2009年版『バイオニックコマンドー』の発売から15年が経った。これを機に、いろいろとツッコミどころはありつつも、素晴らしく耳に残る名曲『バイオニックコマンドー』を聴いてみてはいかがだろうか。 最後に筆者自身、『バイオニックコマンドー』のようなワイヤーアクション(スウィングアクション)要素のあるゲームを見るたび、不意に発してしまう一言であり、水木一郎アニキを未来永劫、忘れないための一言を持って本稿を締め括る。 バイオニック!
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