中国が台湾周辺で大規模軍事演習 頼政権に降伏迫るシナリオ、習政権が検討「新型統一戦争」 日本の衆院選で議論がない危機感
【ニュース裏表 峯村健司】 前号に続き、「バチカン出張ルポ第2弾」を執筆する予定だったが、中国が14日、台湾周辺で大規模な軍事演習を実施したので内容を変更して解説をしたい。 【比較してみる】中国と台湾の軍事力 今回の演習は同日未明から始まった。中国軍で台湾を管轄する東部戦区報道官は同日夕、大規模演習が「成功裏に終了した」と発表した。「1日で終わったから大した演習ではない」「台湾の頼清徳政権への威嚇目的に過ぎない」など、専門家によるさまざまな解説がされている。いずれも本質とはいえない。 筆者の近著『台湾有事と日本の危機』(PHP新書)で紹介した習近平政権が内部で検討している「新型統一戦争」のシナリオに基づいて説明していきたい。 ①演習範囲 今回の演習は、2022年8月にナンシー・ペロシ米下院議長(当時)が訪台した直後と、今年5月に頼氏が総統就任した後の演習(連合利剣―2024A)に続いて3度目の台湾周辺での大規模演習である。過去2回と比べて、演習場所がより台湾本島に近い。総統府がある台北のほか、タンカーが着岸できる大型港がある台中、高雄、基隆の周辺海域を封鎖し、食料やエネルギーの輸送を遮断する狙いが明確になっている。 ②実戦訓練 今回の演習は、夜中に兵力を展開し、早朝演習が開始された。実際の奇襲を想定した訓練となった。台湾国防部によると、演習に参加した航空機は、最新鋭ステルス戦闘機「J20」や爆撃機、無人機を含めて延べ125機で過去最多となった。台湾東部には空母「遼寧」を派遣して、艦載機が発着するなど、かつてないほど実戦を意識した内容となった。 ③海警局による「包囲」 今回の演習には、中国海警局の監視船4編隊が出動し、台湾本島の周りを巡航した。この中には、世界最大級の1万トン級監視船「2901」も含まれている。「一つの中国」原則を主張する中国は、台湾を「自国の領土」と主張している。その周囲の「領海」における法執行として、台湾を出入りする船舶に対する「臨検」を実行するかたちで、物流を止めることを念頭に置いた演習とみられる。 いずれの演習内容も、筆者が作成した「エスカレーションラダー」シナリオの通りの展開となっている。これは、戦争に至るまでの「グレー・ゾーン」において、軍事演習や「臨検」などによって、台湾に対して圧力を強めていき、最終的には頼政権に降伏を迫るやり方である。