新疆ウイグル自治区の街角

中国商務省はこのほど、米デザイナーズブランド、カルバン・クラインとトミー・ヒルフィガーを擁するPVHが、世界の綿花の5分の1を生産する中国西部・新疆ウイグル自治区の製品に対して“差別的措置”を取った疑いで調査中だと発表した。PVHが同自治区からの綿花や衣料品の輸入を控えたことが、中国の法に違反した疑いがあるとしている。 【全画像をみる】中国政府、米服飾ブランド企業を狙い撃ち。欧米の反ウイグル強制労働措置に対抗 イスラム教徒であるウイグル人が大多数を占める同自治区では、ウイグル人が強制労働をさせられたり、集団連行され「中国化」の洗脳教育を強要する再教育キャンプに収容されるなど、人権弾圧が続いているとして西側諸国が批判を強めている。中国側はこれを否定している。 米ニューヨーク・タイムズは、今回の調査により、中国政府は新疆ウイグル自治区を避ける企業に対する厳しい姿勢を鮮明にしたことで、一部の多国籍企業は法的に板挟みになると報じた。 というのもアメリカは2022年、原材料の調達や製造過程などで強制労働を伴っている疑いがあれば、新疆ウイグル自治区からの輸入を禁止する「ウイグル強制労働防止法」を施行。欧州連合（EU）も同様の法規制を3年後に適用する方針だ。 これに対抗するため、中国政府は、これら西側の法的措置を遵守する企業を特定した「信頼できない企業リスト」なるものを作成。もしPVHが新疆綿をめぐり、30日以内に書面で差別的な商慣行を行っていないと証明できなければ、PVHは同リストに追加され、中国との取引が禁止されるおそれがある。 在中国・米国商工会議所のショーン・スタイン会頭は同紙に、「今回は初めてのことなので、企業側は自社にとって何を意味するのかを検討せざるを得なくなった」と述べ、「多くの企業はリスクがより高まったと感じている」と付け加えた。 オーストラリアのシンクタンク・オーストラリア戦略政策研究所が2020年に発表した報告書によると、新疆ウイグル自治区でウイグル人が強制労働させられている工場などで生産された製品を輸入していたとみられる多国籍企業は82社に上り、その中にはPVHのほか、GAPやユニクロ、ZARA、ラコステなどのアパレル企業や、ゼネラルモーターズ、BMW、メルセデス・ベンツ、ジャガーなどの大手自動車会社も含まれていた。 その結果、今年5月には、新疆ウイグル自治区での強制労働に関与しているとされた中国側サプライヤーから部品を調達していたとして、複数の世界的な自動車メーカーが米議会の調査対象になった。 タイムズ紙によると、実際、自動車からソーラーパネルまで、多くの国際企業が中国に大きく依存している。それは中国が圧倒的に世界最大の製造国であり、中国産綿花にいたっては、90％以上が新疆ウイグル自治区で栽培されている。 一方、H&Mやナイキなどの欧米ブランドは2021年に新疆ウイグル自治区との関係を断つことを発表した後、中国の消費者からは強い反発を招いた。 在中国・欧州連合商工会議所は声明で、「欧州企業はますます板挟みになっている」と指摘。「新疆のような地域での事業や調達をやめれば、中国政府と消費者の両方から厳しい反発を受けることになる」とし、一方で「留まれば、自国や他の国際市場で悪影響が出るリスクがある」と苦しい立場を明かした。