映画『アイアンクロー』公開!〝鉄の爪王国〟の生き証人、ザ・グレート・カブキが語る「呪われた一家」の真実
カブキ フリッツの親父に言われて、ケビン、デビッド、ケリーなんかを教えたね。試合が始まる前、早くに会場に呼び出して練習する。俺は日本式の厳しい教え方でボッコボコにやるから、通路の奥で見てたフリッツの親父が喜んじゃってさ。週末にギャラを取りにいくと、毎回、ファイトマネー以外にボーナスを出してくれたよ。ケビンたちのコーチをやるようになったら、フリッツの親父が俺のこともファミリー扱いしてくれてね。 ――当時のケビン、デビッド、ケリーはどんな印象がありますか? カブキ まず、一番上のケビンは兄弟の中で一番身体が小さいんだけど、動きはいいの。だけど、馬力がありすぎて攻めないで、いいところで攻めてしまうような不器用さがあったな。二番目のデビッドは背が高くて、オーソドックスなレスリングができるレスラー。三番目のケリーは一番いい身体をしていて、頭もスマートだったね。 ――映画では、ケビンはすごく真面目でトレーニングする人なんだけど、マイクアピールなどエンターテインメント性の部分が苦手。逆にデビッドはエンタメ的な才能があって、兄弟の序列が逆転したような描き方をされていました。 カブキ そんな感じはあったね。デビッドとケリーはうまかったけど、ケビンはちょっとバタバタしていて、間合いが取れないところもあったから。 ――また、映画では厳格な父フリッツの意見はファミリーにとって絶対であるようなことも描かれていました。 カブキ 実際そうだったよ。あの兄弟はみんな、親父の前に行ったら直立不動。「イエッサー!」って感じで、フリッツの言うことは絶対だったから。 ――フリッツが自分の家からNWA世界ヘビー級チャンピオンを出すことに取り憑かれて、そのプレッシャーで息子たちが自滅していったようなところはあったと思いますか? カブキ そういう感じはなかったね。みんなのびのびやってた。親父のフリッツはプロレスで財を成しただけじゃなく、ホテルや銀行も経営していた地元の名士なんだよ。そういう家の子供だから、息子たちはちょっとおちゃらけてたところもあった。要はボンボンなんだよ(笑)。金は使い放題だし、若いから無鉄砲で、ドラッグに手を出したりね。 ――なるほど。地元の名士の息子で、自分たちも若くしてスターになり、私生活の乱れもあったんでしょうね。 カブキ 当時、ダラスにはブルーザー・ブロディもいたんだけど、ブロディは同じユダヤ系のフリッツを親みたいに慕っていたから、エリック兄弟の兄貴分みたいな感じで、よくあいつらを守ってたよ。デビッドやケリーは若くてトンパチだから、羽目を外す。そうすると、他のレスラーと揉めるじゃない。そんなときはブロディが出ていって収めるわけ。 ■息子の死までをプロレスビジネスに変えた父 すべてが順調に行っているように見えたエリック一家だったが、1984年2月、全日本プロレスへ遠征中だったデビッドがホテルで急死。当時、デビッドは次期NWA世界ヘビー級王者の最有力候補と呼ばれていたが、わずか25歳の若さでこの世を去ってしまった。そしてこの悲劇を境に、エリック一家の運命は暗転していく。