アジア杯挑む森保Jの秘密兵器FW北川航也と岡崎慎司の絆
岡崎からLINEで届いたメッセージとは?
岡崎のデビューは岡田ジャパン時代の2008年10月9日。UAE代表とのキリンチャレンジカップ2008で先発し、後半37分までプレーした。それから10年とちょっと。北川は今年10月12日のパナマ代表とのキリンチャレンジカップ2018で、後半21分から途中出場している。 もっとも、憧れてきた先輩と同じピッチでデビューしたことを「僕、知らなかったんですよ」と、北川はちょっぴり申し訳なさそうに笑う。 「後で気がついたというか、周りから言われて。タイプは違うと思いますけど、ボールに対する執着心、相手のゴール前へ入っていく嗅覚や感覚など、見習うべきところは本当にたくさんあるので」 2年ほど前から岡崎とは無料通話アプリ『LINE』でつながっている。岡崎がシーズンオフで帰国した際に、何人かのチームメイトを交えて食事をした際に連絡先を交換。それ以来、悩みや苦しみに直面したときには、勇気を振り絞ってイギリスへメッセージを送信してきた。 今年の夏もおもむろにスマートフォンを握った。7月末までに7ゴールをマーク。自己最多だった昨シーズンの5ゴールを軽く更新した直後の8月に入って、実に9試合続けてゴールから遠ざかった。 「シュートを打ち続けろ。ドリブルをし続けろ。プレスをかけ続けろ。クロスに入り続けろ」 岡崎から返ってきた、泥臭さが凝縮されたメッセージでFWの原点に回帰できた。トンネルに迷い込んだときこそ、がむしゃらに体を動かし、ボールを追い続ける。日本代表として歴代3位の50ゴールをあげ、プレミアリーグ制覇もかなえた岡崎の信条が北川を目覚めさせた。
大迫と2トップでプレーできる北川の強み
9月21日のガンバ大阪戦から4試合連続で5ゴールをマークして、一気に2桁の壁を突破した。その3試合目、10月7日のジュビロ磐田との静岡ダービーで2ゴール2アシストと大暴れし、チームを5-1の大勝に導いた数時間後の深夜に、青天の霹靂にも映った吉報が届いた。 森保ジャパンに招集されていたFW小林悠(川崎フロンターレ)が故障で辞退し、代役として白羽の矢を立てられた。慌ただしく荷造りを整え、パナマ戦へ向けた直前合宿が行われる新潟市内へ向かう途中で、再び岡崎へ「代表に招集されました」と感謝の思いを込めたメッセージを送った。 返ってきたメッセージには祝福とともに、一緒に頑張ろう、というニュアンスの文字が綴られていた。今夏のワールドカップ・ロシア大会を最後に遠ざかっている日本代表入りを、岡崎もあきらめてはいない。強い絆で結ばれる先輩と後輩が、ライバルへと変化し始めた瞬間だった。 年内最後の一戦となった、11月20日のキルギス代表とのキリンチャレンジカップ2018。出場3戦目にして初先発を果たした北川は、2点のリードで迎えた後半27分に、味方からの縦パスをヒールで巧みに流してFW大迫勇也(ベルダー・ブレーメン)のゴールをアシストした。 「確率を考えてのプレーでした。自分で行ける判断もありましたけど、左から相手が来ているのも、サコ君(大迫)の姿も見えていたので、最善の判断でできたと思います」 森保ジャパンでは1トップの大迫の背後に、左から中島翔哉(ポルティモネンセSC)、南野拓実(ザルツブルク)、堂安律(FCフローニンゲン)の若手三銃士が並ぶ形が象徴となりつつある。 ただ、パターンがひとつでは相手に研究されるし、いつかは壁に直面する。だからこそ、大迫との2トップ気味でもプレーできる北川の存在は一気に大きくなり、アジアカップ代表にも選出された。 「2人の関係で崩せるのであればそれが一番だと思うし、清水でも意識しているプレーでもあるので。自分がちょっとだけ下がり気味になるなかで、関係性をもっともっと高めていきたい」 岡崎が代表初ゴールをあげたのは通算5試合目だった。スマートフォンを開いては、岡崎から贈られた金言を機会があるごとに見返す北川は次が4試合目。憧れの先輩にして永遠のライバルよりも早くゴールネットを揺らせば、それだけ森保ジャパンが勝利する確率も高まってくる。 (文責・藤江直人/スポーツライター)