「重いダンベル」と「軽い風船」の違いを本気で考えてみたら…アインシュタインの相対性理論にたどりついた「深すぎるワケ」
138億年前、点にも満たない極小のエネルギーの塊からこの宇宙は誕生した。そこから物質、地球、生命が生まれ、私たちの存在に至る。しかし、ふと冷静になって考えると、誰も見たことがない「宇宙の起源」をどのように解明するというのか、という疑問がわかないだろうか? 【写真】いったい、どのようにこの世界はできたのか…「宇宙の起源」に迫る 本連載では、第一線の研究者たちが基礎から最先端までを徹底的に解説した『宇宙と物質の起源』より、宇宙の大いなる謎解きにご案内しよう。 *本記事は、高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所・編『宇宙と物質の起源「見えない世界」を理解する』(ブルーバックス)を抜粋・再編集したものです。
「重いダンベル」と「軽い風船」の違いとは?
前の記事で紹介したW粒子、Z粒子、物質素粒子。これらに質量を与えているのは、素粒子の標準理論に組み込まれたヒッグス機構という仕組みです。ただし実は、原子核を構成する陽子や中性子の質量は、ヒッグス機構で与えられているのではありません。では、陽子や中性子に質量を与える仕組みとは? 本記事では、あらためて質量とは何かという話をします。 重いダンベルと軽い風船。2つの違いは、どこからくるのでしょう。それを考える前に、まずは「重い」というのがどういうことかを考えてみましょう。 私たち自身の体はもちろん、地球上の物質はすべて重力によって地球に引き付けられています。重い物質は強く、軽い物質は弱く。つまり、重さとは重力の働く強さだと考えてもよさそうですね。実際、ニュートン博士の万有引力の法則によれば、すべての物質には質量に比例した大きさの重力が働きます。地上では、物質の質量とそれに働く重力の間に比例関係があり、比例定数を「重力加速度」と言います。中学や高校の理科で、「9.8メートル毎秒毎秒(9.8m/s²)」という数字が出てきたのを覚えている人もいることでしょう。 地球から遠く離れた宇宙空間ではどうでしょう。あるいは宇宙ステーションの中のような無重力状態が実現している場所では、質量をどうやって決めればいいのでしょう。重力のない世界で質量を体感するには、その物質を押してみればいいですね。質量の小さい物質は楽に動かせるのに対して、質量の大きい物質を動かすには大きな力を必要とします。すべての物質には「慣性の法則」が成り立っていて、静止した物質は静止したまま、ある速度で動いている物質はその速度のままにとどまろうとするのです。慣性の大きさはその物質の質量に比例するので、その物質を加速するために必要な力に応じて質量を定義することができます。 通常、「質量」と言うときは、後者のように慣性を通じて定義されるものを指すことが多いです。これを「慣性質量」と呼びます。ただし以下で述べるように、この慣性質量は、重力に関わる質量である「重力質量」とも密接に関係しています。