映画『朽ちないサクラ』──警察の不祥事、カルト教団、公安が絡み合う複雑なテーマに挑んだ杉咲花と萩原利久にインタビュー
柚月裕子による小説を映画化し、刑事モノながら広報職員と若手警察官という異色の組み合わせが話題の映画『朽ちないサクラ』。杉咲花と萩原利久に、作品の舞台裏を尋ねた。 【写真を見る】名バディとなった杉咲花と萩原利久の写真を見る
『孤狼の血』の柚月裕子による警察サスペンスミステリー小説を映画化
『孤狼の血』等で知られる人気作家・柚月裕子による小説「朽ちないサクラ」が、豪華キャストの共演により映画化された。杉咲花が主演を務め、萩原利久、安田顕、豊原功補らが出演。『帰ってきた あぶない刑事』の原廣利が監督を務める。 ■映画『朽ちないサクラ』のあらすじ 女子大生が殺害された。彼女からストーカーの相談を受けながら先延ばしにしていた愛知県警は、その不手際を地元新聞にスクープされる。県警広報課に勤める泉(杉咲花)は、県警の内情を親友で新聞記者の千佳に話してしまっていたことから、千佳がリークしたのではないかと疑ってしまう。しかしその数日後、今度は千佳が変死体となり発見される。自分が責めたから、身の潔白を証明しようと千佳は殺された、と自責の念に突き動かされた泉は、同期の磯川(萩原利久)とともに、独自捜査を始めるのだが、事件は思わぬ展開を見せる。 ■異色のバディに扮した杉咲花と萩原利久が語る舞台裏 ──おふたりが今回演じた泉と磯川は、基本の服装がスーツ姿ですよね。組織や集団に染まるための没個性的なビジュアルにも思えますが、その中でどうキャラクターの見た目を作っていかれたのでしょう。 杉咲:私は泉という人間に開かれていないものを感じました。そのような状態のときは何かを隠したくなる気がしているので、「前髪がある」「髪の毛を耳にかけない」といったビジュアルにしていきました。自分の感覚的な部分でもありますが、泉を演じるうえで手助けになってくれました。 萩原:ベースは規定に則った髪型というところから考えて、そのうえで磯川に純粋でクリーンな雰囲気を入れたいと考えました。色でいえば白に近いような、濁りのないイメージです。そこで前髪を上げさせていただきました。気をつけたのは、清潔感を持ちすぎると新入社員っぽくなってしまうことです。僕がスーツを着慣れていないこともあって、あまりかっちりしすぎると大学の入学式にしか見えなくなってしまうんですよね。まだまだ若いけど新人ではないため、衣装合わせの際にバランスを調整しながらあの形に落ち着きました。 ■主人公の「失敗」から始まる物語 ──『朽ちないサクラ』は「刑事モノ」の枠組みの中では珍しく、広報職員と若手警察官が自主的に組んで事件の真相究明に乗り出します。おふたりは本作の独自性についてどのように捉えましたか? 萩原:僕は警察官役自体が初めてだったため、そうしたイレギュラーさは感じきれなかったかもしれません。ただ、この作品の一貫した面白みといいますか、大きなポイントに「視点の多さ」があるように思います。 本作のお話をいただいて脚本を読んだ時、ものの見方は本当に様々だということを改めて感じました。特に磯川はこの中で起きる出来事の真ん中にいるわけではなく、むしろ客観的な場所から関わっていく立場です。この「中心にいない/なれない」という距離感は、現代社会と個人の関係性のメタファーにも感じられました。実際、世の中で起きている大事の大半は、自分と無関係ではなくても中心にはいられないように思います。『朽ちないサクラ』はそうした僕自身の感覚とリンクする部分が多く、登場人物一人ひとりの感情に対して共感とはまた違う、心がぞわっとするような生々しさを感じました。その引っかかりが「本作にチャレンジしたい」と思う理由になりました。 杉咲:本作で私が特徴的だと感じたのは、泉という人が答えを出さず、区切りをつけられないところです。自分に何ができるかわからないけど、それでも何かがしたいという衝動にまみれているところに人の複雑さを感じて、魅力的だと思いました。 本作は泉という人間の「失敗」から始まる物語です。そんな主人公のことをもしかしたら好きになれない方もいらっしゃるかもしれません。でも私は、失敗に向き合って、責任をとろうとする人のことを見捨ててはいけないと思いますし、そのさまを粛々と描いたこの作品に、何か共鳴のようなものがあったのだといまは感じます。 ■純粋な衝動が泉と磯川を動かした ──おふたりのおっしゃる通り、泉や磯川の行動理念は画一的な正義感や大志というよりも、私的な後悔や衝動によるものですよね。「立場によって正しさが変わる」という現代的なエッセンスも感じます。 杉咲:その部分にとても人間味を感じました。居ても立っても居られずに動き出してしまう“衝動”は、正しい/正しくないでは語れないものだと思います。私自身も一人の人間として、この人(泉)がどういう境地に行くのかを見届けたい感覚になりました。 萩原:磯川においては泉さんへの恋心がそれにあたるとは思いますが、それは危ういものだとも感じていました。恋心は全てを可能にしてしまうようなポジティブなパワーを持っている反面、失われた時にどんな選択を取るのかわからない脆さも併せ持っています。演じるうえでは、磯川のなかでどれくらいの強さなのか、そのレベルを探り探り調整していきました。泉への想いが強すぎると全てがそっちに向かってしまうし、弱すぎると「なんでそこまで泉に尽くすんだろう?」となりかねません。初動には恋心があっただろうけれど、一緒に行動するなかで泉に感化されたものがあっただろうし、恋心や正義感やその他にも共鳴する部分がどんどん増えていった──という考えで臨みました。 ──それが泉と磯川の絶妙な距離感を生み出したのですね。言葉を交わして構築していくというより、自然発生的なものだったのでしょうか。 萩原:そうですね。具体的な距離感でしたり、どうしようこうしようといった話し合いは特に行いませんでした。 杉咲:お互いが隣に立って呼吸を合わせようとしている空気感があった気がしています。原監督から二人の距離感について細かい演出があったというよりは、俳優から出てくるものを一枚絵として見ても美しく捉えていくことに力を注いでいらっしゃった印象がありました。シーンによっては、実際に現場に立ってセリフを音で発してみたときの着地点によって、加減をしていく場面もありました。 萩原:そうですね。自分で実際に見て、聞いて、感じるなかで自然と所作や距離感が生まれていったように思います。そういった“情報”の集め方が杉咲さんと自分はきっと近かったから、泉と磯川にそのまま生きた部分があるのかもしれません。 ■春の風のような人 ──おふたりは『十二人の死にたい子どもたち』(2019)に続く共演ですね。 萩原:本作のオファーをいただいた際、泉さんを杉咲さんが演じられると聞きました。『十二人の死にたい子どもたち』でご一緒した当時から「もう一度共演したい」という想いがふつふつとあったため、その機会が巡ってきたという面でも明確に「やらせていただきます」とお返事しました。 杉咲:『十二人の死にたい子どもたち』のときは作品の内容や役柄の関係性もあり、コミュニケーションを取ることができる機会があまりありませんでした。ほとんど初めましてのような感覚で今回ご一緒しましたが、萩原さんはとても軽やかに現場にいる方で。なんというか、春の風みたいに。息苦しいシーンが多いなかで、萩原さんがいてくれると自由に息が吸えるような感覚になりました。 萩原:嬉しいです! 「僕は春の風です」と色々なところで自慢したいです。 ただ、杉咲さんはそう言ってくれますが、やっぱり現場というものは例外なく緊張するものです。それこそ杉咲さんとの共演は初めましてじゃないのに初めましてのような部分もあったため僕の中で別種の緊張もありましたが、初日の喫茶店のシーンでふわりと取り去ってくれました。過度な緊張はパフォーマンスにおいてマイナスに作用してしまいますが、杉咲さんは心を委ねたくなるような、身を任せたくなるような安心感があって、とても有難かったです。同時に、本番になるとプラスの意味での緊張感で引き締めてくださって、何から何まで引っ張っていただいたような感覚です。同世代の方にここまでしてもらえることは多くはないかと思うので、たくさんの刺激をいただきました。 『朽ちないサクラ』 6月21日(金)より全国公開 写真・渡辺修身 取材と文・SYO 編集・遠藤加奈(GQ) (杉咲花) へアメイク:豊田まさこ(dynamic) スタイリスト:中澤咲希 (萩原利久) ヘアメイク:Emiy (スリーゲート) スタイリスト:Shinya Tokita シャツ ¥77,000、中に着たTシャツ ¥35,200、パンツ ¥115,500 by CFCL(シーエフシーエル オモテサンドウ Tel:03-6421-0555)
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