<一冊一会>人はなぜ〝懸命に生きる姿〟に惹かれるのか?旅に持っていきたい一冊をおすすめ
今月は旅に持って行きたい一冊を選びました。 ちょっと重い本もありますが、その分面白いです。
謎の巨大湿地帯
イラクと聞けば、乾いた砂漠のイメージが浮かぶ。しかし、巨大な湿地帯が存在し、歴史的にそこに多くの人々が住んでいたという新聞記事を読んで「こりゃ行ってみるしかない!」と思い立つ。数々の未開の地域を旅して、唯一無二のノンフィクション作品を綴ってきた著者の真骨頂だ。ただし、イラクといえばイスラム国(IS)が台頭したこともあり容易に行ける場所でない。それでも、著者は行きたいという情熱に突き動かされる。同行者の山田隊長のスケッチも必見だ。
医師が「お気の毒」と言う時
日本人の2人に1人ががんになり、3人に1人はがんで亡くなるとも言われる。つまり、自分自身はもちろん、周囲の大切な人ががんになる可能性は高く、その際には、この忌まわしい病気に向き合わなければならないのだ。本書は、仕事と子育て真っ最中の40代前半NY在住ライターが、ある日突然、がんになり、その治療方法や、内面を書いたノンフィクションだ。「がん」と聞けば怖くて目を背けたくなるが、万が一に備えて予行演習になるエピソードが詰まっている。
10日間の旅
不慮の事故で人を死なせてしまった18歳のエメット。更生施設を出て自宅があるネブラスカの農場に帰るが、父親は多額の借金を残して亡くなったため、農場を手放さなければならない。弟のビリーと新しい生活をはじめるため、自動車でカリフォルニアを目指すことにする。もしかすると、家を出た母親にも会えるかもしれないという淡い期待を持ちながら。「リンカーン・ハイウェイ」は、ニューヨークとサンフランシスコをつなぐ、米国ではじめての横断道路。ここを通って、西に向かうはずが、なぜが東に向かうことになってしまう。700ページ近い大著だが、一気読みできるロードノベルだ。
書き溜めた作品集
大学卒業と同時に結婚、23歳の若さで出産して2人の子どもを育て上げた著者は、10万人に1人の確率といわれる悪性の脳腫瘍「グリオーマ」に罹患し、闘病生活を送っている。本書はこれまで書き溜めたエッセーやルポルタージュを集めたノンフィクションであり、自身の持つ死生観や、「死の前に学びたい」と考えた宗教について語られている。寿命の長短を超えた「何か」に希望があると願い、今の瞬間を愉しもうとする著者の姿と心情が表れた作品だ。
生きものを「待つ」楽しさ
本書は、生きものが通る道を「生きものハイウェイ」と呼ぶプロの自然解説者の著者が、街中を通る生きものを紹介する。例えば、都会にある小さなネオンサインには、その明かりによって色が変わるニホンヤモリがいたり、道路標識などについている細い線はカタツムリやナメクジがカビを食べた跡であるなど、今まで注目していなかったポイントを見るきっかけになる。苦労と喜びを味わうことができる生きものを「待つ」ハイウェイは、予想以上に日常の中に潜んでいる。
WEDGE編集部