『虎に翼』で広がる“支援の輪” 朋一の左遷は桂場の政治権力への対抗の一手か
『虎に翼』(NHK総合)の放送もあと残り2週。9月16日に放送された第121話では、司法の独立が脅かされる中で寅子(伊藤沙莉)たちがそれぞれの使命を全うしようとする姿が描かれた。 【写真】折に触れて多岐川(滝藤賢一)のことを思い出す桂場(松山ケンイチ) 昭和45年10月、寅子が委員の一人に選出された法制審議会少年法部会が始まる。少年事件の厳罰化を求める世間の声を受け、少年法を改正すべきか否かについて議論するはずだったが、幹事の豊谷(中山祐一朗)ははじめから法改正ありきで議論を進めようとしていた。その姿勢に、多岐川(滝藤賢一)の思いを受け継いだ寅子や久藤(沢村一樹)は断固として反対する。 しかし、豊谷は「その悠長な姿勢で非行少年が野放しになり、治安悪化に加担しているのでは」と聞く耳を持とうとしない。様々な理由で罪を犯した少年たちの更生に努めてきた家裁のこれまでを否定するかのような発言に苛立ちを抑えられない寅子。 そんな彼女を気遣うのは、道男(和田庵)だ。戦災孤児だった彼もかつては生きるため犯罪に手を染めたが、寅子をはじめ周囲の大人たちに支えられて独り立ちすることができた。いまや梅子(平岩紙)と「笹竹」を経営し、補導委託先として今度は自身が非行少年・大五郎(増田怜雄)を支える側となっている。 「刑罰を科して、執行猶予を付けておしまいではなく、保護処分により、家裁の人間と己と向き合い、心身の調和をはかるほうが適切で、再犯を防げる場合が極めて高い」と最後の力を振り絞って意見書にまとめた多岐川。道男の現在を見れば余計に、その言葉が正しいと思わずにはいられない。 一方、美位子(石橋菜津美)の裁判が二審の東京高裁で実刑判決となったのを受け、よね(土居志央梨)と轟(戸塚純貴)は最高裁に上告。航一(岡田将生)ら最高裁調査官が受理するか否かの調査を進める間、二人は別の依頼に取りかかる。「お二人がたくさんの方を救う姿を見ていると元気になるわ」と気丈に振る舞う美位子を見て、よねが思い出すのはかつての自分だ。よねもまた実父から身売りされそうになり、家を飛び出した先でマスターの増野(平山祐介)に雇ってもらった。 香淑/香子(ハ・ヨンス)は夫の汐見(平埜生成)とよねの事務所で原爆被害に遭った外国人への支援を始めることを決意。二人も多岐川に助けられたように、誰もが誰かが手を差し伸べてくれたからこそ今がある。そんな彼らが、今度は自分が困っている人のために手を差し伸べ、力の限りを尽くそうとしている姿に胸が熱くなった。 そんな中、熱心に若手の仲間たちと勉強会を行っていた朋一(井上祐貴)が最高裁事務総局から家裁に異動を命じられる。その直前、政民党幹事長の寒河江(外山誠二)が最高裁を訪れ、裁判所への調査特別委員会の設置について桂場(松山ケンイチ)に圧力をかけていた。気になるのは、「最近のおたくらは、とても司法の公正を守っているとは言い難いんじゃないのか」「最近じゃ若い裁判官が、傾いた考えを持って現体制変革を目指して、作為的な行動を起こしているとも聞く」という言葉。それを受け、司法の独立を何よりも重んじる桂場が、政治権力の介入に先手を打つ形で朋一らリベラルな思想を持つ若手裁判官たちを左遷した可能性もある。 最高裁長官の就任祝い以来、「笹竹」にも姿を見せていないという桂場。難しい表情は元からだが、それでも以前は親しい人間の前では柔らかい印象を覗かせていたのに対し、今は明らかに影を落としていて誰も近づけさせないオーラがある。その微妙な違いを巧みに表現する松山ケンイチの演技には目を見張るが、いつものお団子を美味しそうに食べる桂場の姿を早く見たいものだ。
苫とり子