フリーアナウンサー・神田愛花『単独ライブに向かう夫と、その妻。』
8月上旬、バナナマンの単独ライブがあった。どんなに忙しくても毎年開催していて、30回目くらいになるそうだ。私は夫と交際後にその存在を知り、以来、欠かさず観覧している。 【画像】個性あふれる神田愛花さんの直筆イラスト(1回~61回)はこちら 結婚前のある夏。大喧嘩していたのに、「ライブは見に来てください」と連絡してきた夫が可愛く思え、行くことにした。そこで黒いサングラスと黒いTバックだけを身に纏(まと)った夫が、ダンスを披露。あの身体のフォルムと、想像を超えたキレのある動きの組み合わせが最高に面白く、涙を流しながら大笑いした。そして、生まれて初めて、人間が神々しく見えた。(この才能を誰かが守らなきゃ)と思い、(それは私の責務かも)と悟った。そう、このバナナマンライブが私の人生を大きく変えたのだった。 そんな経験もあり、単独ライブは私にとっても、大切な存在。約1ヵ月にわたる稽古と本番期間中は、夫がライブに集中できることを第一に考えて動いている。そして結婚7年目の今年、ようやく上手にサポートできたと実感できた。 稽古期間中、夫は毎晩深夜1時頃まで稽古をして帰宅する。私たち夫婦は普段から会話が多く、それが楽しいと感じている。それなのに、いつもより気の張る仕事をして帰宅した夜、相手が眠っていたら……私なら「あ~あ、今日もつまらなかったなぁ」と思ってしまう。せめて寝る前に「楽しかった!」と思わせたいと考え、何時であっても笑顔で出迎えることにした。そこからお互いその日の出来事を沢山お喋りし、夫から「先に寝な?」と言われたら、就寝する。時刻は大抵午前2時過ぎに。私は1ヵ月間、寝不足状態になったが、踏ん張った。 そして夜ご飯。稽古場で済ませて来るのだが、帰宅後の自主練中にお菓子を食べてしまう。それでは太り放題だ。だから夜食用の枝豆とトウモロコシを毎晩茹でた。さらに本番期間の4日間は、精神的安定を求め、必ず自宅で食べる。この時は朝から緊張して胃に何も入らないため、自宅での夕食が一日で唯一の食事になる。食べることが大大大好きな夫にとって、この一食がどれだけ楽しみか。120%満足させたいので、普段は作らないチキンのトマト煮やハンバーグなど、少し手の込んだメニューを作った。 それらと並行して一番大事なこと。それは私の精神状態が穏やかであり続けることだ。実はこれが一番難しい。 夫は意識がすべてライブに向くため、普段してくれるゴミ出しや洗濯物の収納がパタリと止まる。戸締まりや部屋の消灯など、当たり前のことができなくなる日もある。以前、夫がコンロの火を付けたまま出掛け、お鍋が焦げていたことがあった。自動で火が止まったから助かったものの、万が一を考えるとゾッとした。 ◆家が無事ならそれでよし 昔はこういうことに腹が立ち、その都度夫に注意をしていた。だが一向に直らなかった。それどころか、私の機嫌が悪くなるとそれが伝染して、ギスギスした年もあった。 だから今年は全面的に諦めた。すべて私がやるし、私が家を出た後に何が起きても諦める。勇気がいるし毎日帰宅するまでハラハラしたが、私が覚悟を決めることで、夫婦間がピリつくことはなくなった。 そしてようやく辿り着いたライブ初日。朝起きるや否や、緊張で「オェ~ッ!!」と吐きそうになっている夫を見ていると、初日の公演なんて怖くて見られない。千穐楽(せんしゅうらく)にお邪魔することにした。 私の勝負服である、ピンク色のオーバーオールに、メタリックパープルのCHANELのバッグを斜め掛けにして、いざ千穐楽へ。過去、この服装の時に嫌なことが起きたことはない。ジンクス通り、見事にライブは大爆笑。私も心の奥深くまで安堵で覆われ、会場を出ることができた。 一番大変だったのは夫たちだ。それはわかっている。だが私も自分なりに大変な1ヵ月だった。必死に支えて、本当に疲れたし、夫が一番助けを必要としている時に、妻として役割を果たせたという自負がある。(よく頑張ったなぁ私)と上を見上げると、高架に″ROPPONGI″の文字が。(そうだ! ここは六本木。ご褒美を買おう!)と、六本木ヒルズで新作のセーターとブラウスとスカートを爆買い。自分で自分にご褒美だ。こうして私の今年の闘いも、幕を閉じた。 かんだ・あいか/1980年、神奈川県出身。学習院大学理学部数学科を卒業後、2003年、NHKにアナウンサーとして入局。2012年にNHKを退職し、フリーアナウンサーに。以降、バラエティ番組を中心に活躍し、現在、昼の帯番組『ぽかぽか』(フジテレビ系)にメインMCとしてレギュラー出演中 『FRIDAY』2024年9月6・13日合併号より イラスト・文:神田愛花
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