【戦時下で開業したモスクワの「コスプレ喫茶」】日露関係の行方は? プーチンのパフォーマンスに翻弄され続けた日本外交
開戦から2年以上が経過したウクライナ戦争。この戦争の趨勢を見極めるには、ロシア・ウクライナ双方の国民の「意思」を、注意深く見定める必要があります。 開戦当初から西側諸国の厳しい制裁を受けることとなったロシア。その中で、ロシア国民は何を思うのか? 2022年モスクワの様相をお伝えします。 *本記事は黒川信雄氏の著書『空爆と制裁 元モスクワ特派員が見た戦時下のキーウとモスクワ』(ウェッジ)の一部を抜粋したものです。 【写真】2017年7月、ロシア中部エカテリンブルクを訪問した森元首相をホテルまで送り、談笑するプーチン大統領 ロシアが中国との経済関係を強める一方で、日本とのつながりは、否が応でも細くなっている。そして、日本とのつながりが希薄になっていったのは、経済だけでなく、文化交流も同様だった。 ただ、日露間の溝が深まる中でも、日本文化を好む人々の素朴な気持ちが感じられる局面もあった。 「今日、喫茶店をオープンしたんです。よかったらぜひ来てくださいね」 モスクワ市内で人々に話を聞いているなか、市中心部の公園で突然、ビラを配る若者たちに出会った。その姿を見て驚いた。漫画「鬼滅の刃」のコスプレ姿だったのだ。 ウクライナ侵攻が始まって約3カ月のタイミングだ。数日で終わるとロシア国内では目されていた戦争は依然として終わらず、ロシアの多くの一般人もまた、終わりの見えない戦争に突然巻き込まれ、心の平静を必死に保とうとしていた。 〝そんな中で、コスプレ喫茶店を開業しただなんて……〟。内心複雑な思いに駆られたが、彼らのあまりに自然な振る舞いに拍子抜けもした。 「僕は日本人なんです。これは鬼滅の刃のコスチュームですね」と語りかけると、「日本から来たのですか!ぜひ店に立ち寄って下さいね。漫画もあります。今日なら、プレゼントもあります」と無邪気な様子で話しかけられた。写真を撮っていいかと聞くと、「もちろん」と言ってポーズを決めてくれた。結局、店に行くことはできなかったが、彼らのアニメや漫画への愛に、少しほっとしたのも事実だった。 2014~18年にモスクワに赴任した当時は、安倍首相が主導した日本政府の対露経済協力活動が本格化しており、文化面においても、日本側が積極的にロシアにアプローチを繰り返していた。 モスクワ市内ではたびたび、日本文化を紹介する大規模イベントが開催され、コスプレ大会や盆踊りなどが開催された。日本文化に対するロシア人の関心は高く、多くのロシア人が浴衣や好きなアニメのコスプレ姿で参加し、話題となった。取材をしながら、日本を満喫するロシア人の様子を見て、心が躍った。 ただ侵攻後、そのようなイベントは鳴りを潜めてしまった。日本文化に対する彼らの関心は、今でも続いていると思われるが、次第にその度合いは薄れていく事態は免れないだろう。いずれ、文化面でも中国の存在が高まる可能性が否定できない。