未来を創る「妄想力」、付加価値型デベロッパー三井不動産の挑戦
2024年10月24日発売の「Forbes JAPAN」12月号では、「新・いい会社100」特集と題して、全上場企業対象、独自調査・分析で作成した、「ステークホルダー資本主義ランキング」「自然資本ランキング」「脱炭素経営ランキング」「サプライチェーンランキング」「リスキリングランキング」などを紹介している。それぞれのランキング上位企業、計8社のCEOインタビューや早稲田大学商学部教授のスズキトモ氏、東京大学大学院経済学研究科教授の柳川範之氏らのインタビューコラム等も掲載している。 2024年版「サプライチェーンランキング」第1位に輝いたのは、東京・日本橋をはじめ都市の再開発案件を数多く手がける三井不動産。ステークホルダーと協働しながら、街に新たな付加価値を生むための戦略とは。 ──サステナリビリティに貢献するための経営戦略は。 植田俊(以下、植田):事業を成長させて企業価値を高めることが企業活動の目的のひとつだが、社会的価値を生み出して持続可能な社会に貢献することも大切な目的だ。 たとえばバブル崩壊後ににぎわいを失った日本橋は、地元の方々や中央区、私たちが一体となってミクストユースの街として再生する活動を1990年代後半からスタートさせた。そこから四半世紀がたち、にぎわいが戻っている。小規模なビルの屋上にあった福徳神社を再興し、神社を覆う森は近辺のワーカーのみなさんがくつろぐ場になった。「日本橋に青空を」というキャッチフレーズで運動してきた首都高の地下化も、2040年度の完成に向けて工事が始まっている。日本橋は「残しながら、蘇らせながら、創っていく」というテーマで取り組んでいるが、まさに持続可能な社会への貢献だと考えている。 ──サステナビリティの観点では、神宮外苑の再開発も注目を集めている。 植田:正しい情報が伝わっていなかったと思う。私個人は、現在の絵画館前やイチョウ並木の風景が大好きだ。しかし、今のままでは次の世代にバトンタッチできない。 外苑は災害時の広域避難の場所としても使われ、神宮球場や秩父宮ラグビー場は帰宅困難者の受入施設になりえる。しかし老朽化が進んでいて、首都直下型地震が起きたら心もとない。更新が必要だ。 外苑の緑も重要だが、本当に守るべきは、72ヘクタールの鬱蒼とした森が広がる明治神宮内苑だ。これまでは明治神宮が、神宮球場をはじめとした外苑の収益で内苑の森を維持してきた。しかし、老朽化が進んだ施設では持続性が見込めず、収益力を高める必要がある。たとえ森を守るためでも、宗教法人には公的資金を一切入れることができない。外苑の再開発は、民間でつくった緑の生命維持装置だ。今、手を打たなければ、むしろ次世代の人から「あの世代の人はなぜ持続可能な仕組みにしてくれなかったのか」と不作為の罪に問われるだろう。 ──サプライチェーン・マネジメントにはどう取り組んでいるのか。 植田:グループのCO2排出量のうち、私たちが自助努力で対応できるScope1・2は10%しかなく、Scope3の90%はサプライチェーンや運用後のお客様から排出されている。脱炭素社会の実現にはサプライチェーン全体で取り組むことが大切だ。そのひとつとして、22年に日建設計と「建設時GHG排出量算定マニュアル」をつくった。それまでの国際基準はざっくりとしたもので、例えば排出量の少ない高価な部材を使うと、計算上は逆に排出量が増えるケースもあった。新しい算定マニュアルは不動産協会で認められ、業界のスタンダードとして広めている。