日本の航空会社に対する「外資規制」はなぜ撤廃されないのか?
航空業界の安全保障リスク
しかし、倒産がこれほど大きな衝撃を与えたにもかかわらず、なぜ日本の航空業界には厳しい外資規制があるのか、不思議に思う読者もいるかもしれない。 実際、2000年代から2010年代にかけて、諸外国から「外資規制が日本の航空産業の衰退を早めている」という批判があり、当時、国際航空運送協会(IATA)の事務総長も「高い空港使用料とともに、日本に残っている古い制度のひとつだ」と指摘していた。 では、なぜ今も外資規制が残っているのか。 はっきりしたことはいえないが、主な理由は国家安全保障の側面にあると思われる。日本の安全保障上のリスクは高く、隣国にはロシア、中国、北朝鮮という“敵対関係”にある核保有国があり、これらの国に属する企業が買収を試みた場合、軍事利用などの理由で国民生活を維持できる保証が保てなくなる可能性がある。 2010年後半以降、米中対立などを背景に外資規制が一段と強化される傾向にあり、航空業界への外資規制は当面維持される可能性が高い。
外資規制の国際比較
では、航空会社に外資規制があるのは日本だけかと問われれば、答えはノーである。 確かに欧州連合(EU)加盟国や東南アジアの一部の国など、外資規制を撤廃している国も多いが、国家安全保障などの理由から外資による株式保有を制限している国や地域もあり、次のような例がある。 ・日本:33% ・中国:25% ・ベトナム:34%(ベトナム子会社がある場合は50%) ・米国:25% 中国や米国など、日本よりも外資規制が厳しい諸外国と比較すると、日本の規制はそれほど厳しくないことがわかる。統合があまり進んでいない地域では、その国の航空事情を外資に知られてしまうリスクが高いため、致し方ないと考えられている。 しかし、これは航空業界への新規参入者にとっては大きなデメリットにもなる。例えば、東南アジア各国で成功を収めているエアアジア(マレーシア)は、ベトナムで合弁会社を設立できず、同国での就航計画を断念せざるを得なくなっている。
地域経済に対する航空会社の重要性
航空業界における外資規制は、特に2000年代に強い批判を浴びたが、20年近くが経過し、地政学的リスクも高まっていることから、当面緩和されることはなさそうだ。 しかし、航空会社にとっては、経営危機に陥った場合、資金調達先が限定され、経営難が長期化し、最悪の場合、消滅する可能性が高いことを意味する。 日本は島国で国土は比較的広いが、航空会社の数は特別多いわけではない。仮に企業が倒産すれば、地域経済に大きな影響を与えかねない。 したがって、日本では航空会社をいかに発展させ、安定した経営を確保するかが問われている。政府、企業、国民のすべてがこのことに関心を持ち、考える必要がある。
前林広樹(乗り物ライター)