信州の山村に映える濃色のピンク 門外不出の「高遠の桜」を訪ねて
桜の名所にはそれぞれ特徴があるが、長野県伊那市の「高遠(たかとお)の桜」の魅力は、なんといっても「色」である。この地域固有の赤みが強い「タカトオコヒガンザクラ」が、日本アルプスの山々に抱かれた一帯の風景を彩る。高遠藩・旧高遠町の地名を冠するこの品種は、他ではごく一部にしか移植されていない“門外不出の桜”だ。今年はちょうど週末の4月9、10日に満開となった。 【写真】日本三大奇祭「御柱祭」は本当に“奇妙”な祭りなのか? 「天下第一の桜」とも言われるタカトオコヒガンザクラは、高遠の市街地や周辺の山村一帯で見られるが、なんといっても町外れの高遠城址公園が名所として有名だ。高遠藩の馬場を埋め尽くしていたと言われる桜を、公園整備が始まった明治時代に集中的に移植したのだという。花曇りの日曜日、花見客でにぎわった城址公園と、周辺の山里にひっそりと咲く「高遠の桜」を撮った。(内村コースケ/フォトジャーナリスト)
花曇りに浮かぶ桜色
桜の季節に高遠城址公園を訪れたのは2013年に次いで2度目だ。前回は青空が広がっていたが、今回は花曇り。信州の抜けるような青空とアルプスの山々をバックに咲く赤みを帯びた桜に、鮮烈な印象が残っている。だから今回は、家を出る時に曇り空を見上げて、少々がっかりであった。
ところが、高遠の町が近づくにつれ、車窓から見える沿道に咲く桜に目を奪われ始め、市街地の駐車場から徒歩で城址公園入り口まで登り切ったころには、すっかりシャッターを切る指が軽くなっていた。桜は快晴が王道かもしれないが、殊にこの「高遠の桜」に関しては、淡い光の中で濃い桜色が白い背景にじわっと浮かび上がるさまが、穏やかに心地よい。
公園に入るには、大人500円の入園料が必要。この売上は、貴重なタカトオコヒガンザクラを守るために使われるとのことだ。北側のゲートから入ってすぐの所に広場があり、宴会派の花見客はここに集中する。確かに大勢の人々でごったがえしてはいたが、満開の日曜日の午前10時前というタイミングで、まだゴザを敷くスペースはそこかしこにあった。