病理医不在が課題の旧郡部の病院、遠隔診断始める…秘匿性高い通信回線で画像データを大学病院へ
患者の組織を調べる病理医の不在が課題となっていた山口県済生会豊浦病院(下関市)は今年から、秘匿性の高い通信回線による遠隔病理診断を始めた。組織の画像データを山口大医学部付属病院(宇部市)に送り、大学の病理医が直ちに診断する。豊浦病院によると、同様の取り組みは県内で初めて。(小林隼) 【地図】山口県下関市
病理診断は、手術や検査で患者から採取した組織を顕微鏡で観察し、病気の有無や病状の進み具合を判断する。担当の医師を病理医と呼び、患者の治療方針を決めるのに重要な役割を果たす。
市中心部から離れた旧郡部に位置する同病院では、病理医の不在が2000年頃から20年以上続く。これまで手術と同時並行で行う「術中迅速診断」の実施が難しかったことから、他の病院を紹介するケースが相次いだという。
遠隔診断では、同病院で手術中の患者から組織を採取後、高倍率レンズを内蔵したスキャナーで読み取り、デジタル画像に変換して付属病院に送る。データを受け取った大学の病理医が診断した後、豊浦病院の医師が電話で結果の報告を受ける。
同病院は今回、患者の組織を標本化する冷却装置や情報漏えいの危険性が低い保護回線を使う通信設備の導入に総額2000万円近くの予算を投じた。このうち500万円ほどは国の補助制度を利用。今年3~6月に計3症例で実際に使用し、治療に支障がないことを確認したという。
遠隔診断の導入を推進した同病院の藤本拓也・外科科長は、3症例の結果を踏まえて開いた10日の記者会見で、「遠隔システムを構築することは患者と病院双方の負担軽減につながる。同様の課題を抱えている他の地方病院にも広がってほしい」と力を込めた。