川栄李奈がエンタメ界を席巻 『となりのナースエイド』『変な家』における演技の変化
またもいま、川栄李奈がエンターテインメント界を席巻している。このように感じているのは私だけではないだろう。 【写真】『となりのナースエイド』笑顔で見つめる川栄李奈 『となりのナースエイド』(日本テレビ系)にて初めてゴールデン・プライム帯の連続ドラマ主演を果たすと、それに続くかたちでヒロインを務めた映画『変な家』が公開。さらには主演舞台『千と千尋の神隠しSpirited Away』の上演も間もなくはじまる。彼女はなぜこんなにも愛されるのだろうか。 見事に完走した『となりのナースエイド』で川栄が演じていたのは、ナースエイドの桜庭澪。ナースエイドは医療行為を行うことができない職業だが、患者を日常的にサポートする重要な存在だ。たんにナースエイドが奮闘する話であればありきたりだが、本作の主人公・澪は医療オタクで看護師や、場合によっては医者以上に医療に詳しく、誰にでも明るく接しては距離感を誤ることもある愛らしい人物。そのうえある秘密を抱えるキャラクターで、この澪の多面性がドラマそのものを表情豊かにしていた。 澪を誰がどのように演じるかで、本作の手触りは大きく変わっていたことだろう。川栄の喜怒哀楽を自在に変化させる演技と、“話芸”とも呼べるほどの緩急自在なセリフ回しによって、このドラマは単なる医療ものではない、より幅広い層に受け入れられる作品になっていたと思う。 川栄のパフォーマンスに定期的に触れられるというのは、じつに素晴らしいことだ。多くの視聴者にとって彼女の存在は、朝ドラ『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)の主人公のひとりである大月ひなたを演じた者として共有されているだろう。時代劇好きの1965年生まれの彼女が、昭和、平成、令和という大きな時代のうねりの中を、仕事や恋に奮闘しながら生きていく姿は誇張のない等身大のもの。誰もが親しみを持って応援していた。 それ以前にも、初主演映画『恋のしずく』(2018年)や大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』(NHK総合)、声優を務めた『きみと、波にのれたら』(2019年)などの“代表作”と呼べるものは多々あったが、やはり『カムカムエヴリバディ』がその最たるものであり、あそこから川栄の真の活躍がはじまったのではないかと思う。いまでは脇から作品を支えるポジションだけではなく、先頭に立って牽引する役割を担うことも多い。そのひとつが、封切られたばかりの『変な家』である。 同作はミステリー要素の強いホラー作品であるため物語の詳細に関する記述は控えるが、ざっくりとしたあらすじとしては、とある“間取りのおかしな家”の秘密に迫っていくというもの。物語のカギを握る柚希という女性を川栄が演じ、私たちは彼女に導かれるようにして、恐怖の世界へと足を進めていくことになる。 本作での川栄の演技の素晴らしさは、序盤は謎めいた存在に徹して私たちを翻弄し、中盤以降は物語をドライブさせていくところにある。つまりは作品内における曖昧な存在から、主体性を持った存在へと柚希は変わっていくのだ。抽象度の高い演技からリアリスティックな演技への移行の滑らかさには、鑑賞後に唸らずにはいられない。思い返してみてようやく、川栄の演技の変化の滑らかさに気がつくのだ。ダブル主演を務める間宮祥太朗と佐藤二郎のコンビによる力ももちろん大きいが、本作が観客の内面に生じさせる心の動きには、川栄の力こそが影響していると思う。物語のカギを柚希が握り、作品のカギ(=要)を川栄が握っている。 これらの流れを経て、川栄は『千と千尋の神隠しSpirited Away』の舞台に立つことになる。同作の幕はすでに上がっているが、上白石萌音、橋本環奈、福地桃子、そして川栄李奈の4人がそれぞれに主演を務めるため、川栄の出番は3月27日からとなっている。これまでの彼女の経験のすべてが、この舞台上で活きるはずである。
折田侑駿